雪山の絶景。日本で唯一、流刑小屋が現存する世界遺産「五箇山」
合掌造り家屋だけではなく、周辺の自然環境を含めて五箇山は美しい
五箇山のシンボルと言えば、合掌造り家屋。合掌造り家屋と言うと、急こう配のかやぶき屋根が高々と太い柱で押し上げられている巨大な家屋を想像するかもしれません。実際に現在残っている合掌造り家屋はその手のタイプですが、明治時代の中ごろまでには、もっと原始的な平屋のタイプ、屋根がそのまま地面の上に伏せているような、柱のないスタイルが1/3を占めていたのだとか。
家屋の数自体も今と比べてもっと多く、例えば五箇山の中でも西赤尾地区という場所だけで、明治の中ごろは402戸も合掌造り家屋が存在していたと言います。しかし、大正から昭和という時代の変化、合掌造り家屋の維持費の高さ、維持の手間が嫌われ、合掌造り家屋がほぼ全滅に近い形で消滅していきます。
今では五箇山の中でも主だった建物として、国の重要文化財に指定されるいくつかの家屋と、菅沼(すがぬま)と言われる集落に9棟、相倉と言われる集落に20棟近くが残っているだけです。その希少価値も、2つの集落が世界的に評価される理由の1つなのですね。
ただ、五箇山は合掌造り家屋だけが、価値ある遺産なのではありません。周辺を取り巻く自然環境を含めて、全てが美しい五箇山を成しています。
例えば相倉集落では家屋だけでなく、集落を雪崩から防ぐ裏山の雪持林の環境まで含めて、重要伝統的建造物群として保全が行われています。かやぶき屋根の材料である茅場も国指定史跡として開発行為が制限されていますし、両集落を含む五箇山の広大な部分が、五箇山県立自然公園として保全が行われています。合掌造り家屋だけでなく、周囲の自然も含めて五箇山なのですね。
最初の話に戻りますが、この周辺環境が最も美しく、一方で最も厳しく感じられる時期が、冬になります。今でこそ交通の便が良くなり、ブルドーザーによる除雪作業も行き届くようになりましたが、それでも雪深さには圧倒されるはず。
雪道の運転に不慣れな人には強く勧められませんが、冬用タイヤで雪をかみ、五箇山の集落に到達したときの感動は、やはり格別です。観光客に向けた分かりやすい目玉として、雪景色の中で合掌造り集落のライトアップも行われます。
県境を挟んで隣接した、同じ世界遺産の白川郷も目と鼻の先。しかし個人的には、外国人旅行者が大挙して訪れる白川郷よりも、五箇山の方が静かな雰囲気を楽しめるような気がします。
北陸から東海に抜けるルート、あるいは東海から北陸へ抜けるルートの途中に五箇山と白川郷はあります。同じ冬でも日本海側と太平洋側の劇的な天候の違いも体感できる旅路。装備を整え、天候を読み、無理はせずに安全運転を心がける必要がありますが、その前提に立てば冬の五箇山旅行は忘れられない思い出になるはずですよ。ぜひ、五箇山で冬の絶景を楽しんでみてはいかがでしょうか。
- 参考
- 石崎直義『秘境・越中五箇山』(北國出版社)
- 『観光地としての五箇山 平村編』(富山懸東礪波郡平村)
- 五箇山商工会『越中五箇山』(平村上平村観光協会)
- 『南砺市五箇山 世界遺産マスタープラン』(南砺市)
- 『角川 日本地名大辞典 16富山県』(角川書店)
- 『富山大百科事典』(北日本新聞社)
- 北陸建設弘済会『五箇山の冬はもう眠らない』
image by: 南砺市観光協会
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