家族として受け継ぐ味。横浜に上陸したハノイ名物エッグコーヒーの物語
視察の目的はコーヒじゃなくフォーだった!?
現在、横浜中華街でレストランなど7店舗を経営している陳祖明さんは、中国福建省出身で、日本へ来て31年目。
自身の店を持ってから16年目になるが、常にビジネスをしていくにあたり、会社として変化を追わなくてはいけないし、新しいものにも前向きにチャレンジしないといけないと考えていました。
そんなある日、陳さんの息子さんが、「ベトナムのフォーは美味しいよ。ヘルシーだし。フォーやれば」といったのです。
当時の陳さんはあまり興味が湧かなかったそうでが、2016年に息子さんにベトナムを案内してもらい、開発担当者2人を連れて、ホーチミンとハノイを10日間で周る視察ツアーに出かけました。
滞在中は朝昼晩、3食すべてフォー。ホテルから人気店、屋台まで、フォーを食べ尽くし、フォーの料理教室にも2日間通ったそう。
ホーチミンからハノイに入り、フォーづくしの視察をしていたが、「これといったサプライズもなく、ただ日にちだけが過ぎていた」と陳さんは回想します。
ふとした瞬間に、一杯のコーヒーにハマる
ハノイのホテルで休憩していたとき、息子さんが「ハノイに面白いものがある」と提案してきました。何かと聞いてみると、聞いたこともない「エッグコーヒー」と答えます。
「エッグコーヒー?一体どんなものなんだろう。いまから行こう!」と、フォーづくしの日々からの気分転換もかねて、エッグコーヒを飲みに出かけることに。
着いたのは、ハノイの旧市街地にあるカフェ・ジャン。看板はあるが、どこに店があるのかわからないエントランス。看板の下の路地を進んでいくと、客であふれかえっているカフェが目に飛び込んできました。
2階席でオーダーし、5分も経たずとしてエッグコーヒーが運ばれてきます。もともと、コーヒーはあまり飲まないという陳さん。エッグコーヒーを飲んだ瞬間、「すごくうまい!これはいい!」と満面の笑顔になったそう。
早速、どのようにして作っているのか開発担当者を偵察に行かせるも、オーナーには無下に追い払われてしまいます。
卵を使っているのに、卵臭くない。どうやって作っているのか、何が入っているのか。長く料理に携わってきた陳さん、気になり出したら止まりません。
「で、メニュー全部頼んで、自分たちの経験と舌で観察することにしました。フォーは私にはインパクトがなかったから、飲んだ瞬間に気に入ったエッグコーヒーをやりたくなったんです」と話します。
一旦ホテルへ戻り、改めてホテル周辺を探してみると、エッグコーヒーが飲める店がいくつも目に入ってきました。ハノイでは、すでにエッグコーヒーは定番のドリンクとして愛されていたのです。
そのなかのひとつに入ってみましたが、店内は閑散としており、ドリンクの提供にも15分ほどかかったそう。
そのときを思い出し、「卵臭くて、まろやかじゃない。コーヒー自体も不味くて、ふた口も飲めませんでした」と陳さん。
このとき初めて、カフェ・ジャンこそがエッグコーヒー発祥の店で、街にあるエッグコーヒーはすべてコピーであることに気づいたそうです。
コピーされたエッグコーヒーを飲み、その模倣の難しさを理解して独自開発を諦めます。そしてどうにかレシピを譲り受けるために、カフェ・ジャンを再度訪れることにしました。
陳さんはすっかり、カフェ・ジャンで飲んだたった一杯のエッグコーヒーにハマってしまったのです。