家族として受け継ぐ味。横浜に上陸したハノイ名物エッグコーヒーの物語

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2019/07/25

最初は門前払い、こちらからの問い合わせにも華麗にスルー

通訳を伴ってカフェ・ジャンへ向かい、日本に出店したい旨を伝えるも、オーナーの答えは「ノー」の一点張り。

「夜7時に息子が来るから、彼と話をしてくれ」といわれ、また出直すことに。しかし何時になっても、誰もこない。オーナーの息子さんがきたのは夜9時を回ったころだったそう。

オーナーはどうせ陳さんたちが諦めて来ないと思い、息子さんには伝えていなかったようです。すぐに出店の話をするも、「オファーは世界中からきているが、先祖が作ったものだからここだけ。やる気はない」と、ここでも「ノー」を突きつけられました。

しかし、ここで食い下がらないのが、エッグコーヒーの味に目覚めた陳さんです。逆に「そちらの条件を提案してくれませんか」と問うも、「ノー」の答えしか返ってきません。

それでも懇願を続けると、その熱意に打たれたのか、最後の最後に「考えさせてください」と、態度が軟化。ここで「少しはチャンスがある!」と陳さんは思ったそうです。

image by:Shutterstock.com

日本へ戻ってからはメールでのやり取りをすることになりましたが、一向に返事が来る気配がありません。痺れを切らし、1カ月ほど経ったころ、こちらから電話をしてみたら、なんと家族でバカンス中。

「ハノイに戻ったら連絡します」との返答をもらえはしたが、また何もない…ついに陳さんは、再びベトナムへ向かうことにしたのです。

通訳を手配し、先方にこちらのプランを提案。しかし、その後も進展がありません。そこでまた陳さんは、ハノイへ向かって打ち合わせ。またもや何も進まず、そしてまたハノイへ…これを何度も繰り返したそう。

なぜこんなにも話が進まなかったのか?というのも、「いつか諦めるだろう」と、先方は陳さんからのオファーをスルーし続けていたんだとか。


それでも、何度も何度もハノイまで足を運び、熱心に提案する陳さんの情熱にほだされ、実に7回目の打ち合わせで「OK」が出たのです。このとき、最初の訪問から8カ月が経っていました。

弟子になることは、家族になること

修行中 image by:カフェ・ジャン

70年余の長き渡り、昔から変わらない味を提供し続けているカフェ・ジャン。世界中から寄せられるオフォーを、頑なに断り続けてきました。

そのなかで陳さんは初めての外部継承者として、そして現オーナーに次ぐ二人目の弟子として、門外不出だったエッグコーヒーのレシピを受け継ぐことになります。

現オーナーのお父さんであるグエン・ジャン氏が始めたカフェ・ジャンで働くのは、家族や親戚と身内のみ。さらに秘伝のレシピは、現オーナーにしか継承されていません。次の担い手であるオーナーの娘さんですら、教えてもらっていないのです。

image by:カフェ・ジャン

研修には陳さん一人で向かいました。これも先方からの希望で、レシピの流出を防ぐため、通訳も親戚のなかから用意するほども徹底ガード。

これまで家族経営で賄ってきたこともあり、一度も外から人を入れてきませんでした。そこに入り込んだのが、陳さんです。

一度、オーナーに「なぜ私を受け入れたの?」と陳さんが聞いてみたところ、「積極性と真面目さ。家族と相談して教えることにしたんだよ」と話してくれたそう。

これまで世界中からたくさんのオファーがありましたが、2度も足を運ぶ人はほとんどいなかったそうです。

その壁を乗り越えた陳さんは、何度も何度も足を運ぶうちに信頼関係ができ、秘伝のレシピを受け継ぐまでになったのです。

ほとんどニコリともしないオーナーさんですが、陳さんを見るたびに微笑むようになりました。

修行中はオーナーを「パパ」と呼び、家族は陳さんを「お兄さん」と呼んでいたそう。家族になれたからこそ、弟子として受け入れられ、門外不出のレシピを譲り受けることができたのです。

念願の開店、しかし味が不安定…!?

image by:カフェ・ジャン

2018年4月18日、ついに横浜中華街で「カフェ・ジャン」2号店がオープンしました。焙煎機は本店と同じもの、豆も70年来使っているベトナム産の豆を取り寄せています。

image by:カフェ・ジャン

まろやかさが足りないと納得していなかった卵も、開店直前、たまたま店に飾る彫刻画を取りに行った千葉県山武市で見つけました。

これで準備万端です…が、味がどうにも不安定。本店に問い合わせても回答できないことも多く、「自分で研究するしかなかった」と陳さん。

修行中も、同じレシピで作ってもまろやかにならず、何度も作り直したそうです。

image by:カフェ・ジャン

「同じやり方でやっても、全然できない。愛情を持って取り組まないとダメだと自分で感じました。すべてのものは生きていますから。焙煎の時間やお湯の温度でも、味が変わってきます。すべてバランスよくよく作らないと」

研究に研究を重ね、一杯一杯バランスよく作ることで、オープンから3カ月経ったころにはすっかり安定し、現在に至ります。

「私がエッグコーヒーにハマってしまいましたから、仕方ないです」と陳さんはいま、微笑みます。

毎日の焙煎は、陳さんだけができる仕事。一瞬たりとも気は抜けませんが、「毎日が充実している」といいます。そして、「何杯飲んでも飽きないんです。遅かれ早かれ日本でブームになると信じています」と話してくれました。

ベトナム・ハノイへ何度も足を運び、家族となって譲り受けた秘伝のエッグコーヒー。ぜひ一度、飲んでみてはいかがでしょうか。

  • カフェ・ジャン
  • 神奈川県横浜市中区山下町78-3
  • 045-323-9088
  • 元町・横浜中華街/石川町(元町・中華街)
  • エッグコーヒー(ホット)480円・(アイス)520円/ベトナムコーヒー420円/エッグシナモン480円/エッグココア480円/エッグビール680円など
  • 定休日:なし
  • 日〜木 10:00〜22:30(L.0.22:00)/金土 10:00〜23:00(L.O.22:30)
  • 公式サイト
  • 66席
  • image by:カフェ・ジャン
  • ※掲載時点の情報です。内容は変更になる可能性があります。
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旅をこよなく愛する編集者。情報誌やエンタテインメント誌、ビジネス誌などで編集・ライターとして経験を積み、中国上海、カンボジア・プノンペンでの在住経験も有。2015年に帰国してからフリーライターとしてワークスタイルを確立。幅広いジャンルのテーマで執筆している。

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