新型コロナで窮地に立つ映画館を、街を支える。京都「出町座のソコ」の挑戦
映画館&カフェだからできる「上映作品ごとの新メニュー」
もうひとつの大きな特徴は、出町座で上映される作品によってメニューが変化する点。映画館のなかにあるカフェだからこそ可能なチャレンジです。
築地「出町座さんと相談しながらメニューを考える場合が多いです。ロシアの少女が主人公のアニメ『ロング・ウェイ・ノース』上映の際には、日替わりランチでボルシチをお出ししました。ボルシチ用のじゃがいもの皮をひたすらむくシーンがあったんです。そのシーンからヒントを得て。
ほかにも『この世界の片隅に』では、梅干しの種でイワシの干物を煮る料理が出てくるんです。それを実際に料理してみました。映画に登場した食べ物を味わえるとあって、とても喜んでいただけました」
映画を観終わったあとに味覚で追体験できるとは、なんて素敵なエクスペリエンス。それだけではなく、なんと上映中にも食べることができる場合もあるのだそう。
築地「特に反響が大きかったのが、アニメ『プロメア』を上映したときのピザですね。主人公が、ピザが大好物なんです。
それで上映中でも食べられるようにピザを焼いたら、映画を観に来たお客さんの半分が館内持ち込み用に注文してくださって。主人公がピザを食べ始めたら、同時にお客さんも一斉に食べるという。『実質4Dだよね~』って。みんな楽しそうでした」
志村けんさんが亡くなった翌日、売り上げ9割減に
このように商店街の良品をお客さんに提供したり、映画とフードをミックスさせたりするなど、出町座のソコは文化交流スポットへと進化を遂げつつありました。ところが…。
築地「出町座に映画を観にやってきた若者たちが、商店街で買い物をして帰る。それによって商店街がさらに活気づいて、みんな元気になる。映画館とお客さんと商店街をカフェがつなぐ、いい循環ができつつありました。
生まれたての店なので、『可能性はまだまだあるな』って。そうワクワクしていた矢先に、新型コロナウイルスの騒ぎが起きてしまって…」
新型コロナウイルスは、出町座に、そして築地さんが愛する出町桝形商店街に影を落としました。現実問題として、売り上げも大きく下落したのです。
築地「あれは、志村けんさんがお亡くなりになった翌日でした。信じられないくらい売り上げがどーんと落ちたんです。9割減です。あの日がくるまで、みんな新型コロナウイルスがどことなく他人事だったんですよ、正直にいって。
それが志村さんの逝去で一挙に信ぴょう性を帯びた。商店街の様子もガラッと変わりました。
あんなににぎやかだったのに、人が歩いていないんです。そのころはまだ京都には緊急事態宣言は発令されていなかったのですが、とはいえ『お客さん、来て!』とはいいにくい雰囲気になってしまって…」