新型コロナで窮地に立つ映画館を、街を支える。京都「出町座のソコ」の挑戦
出町座と街の危機を感じて始めた「お取り寄せ」
いつ終わるとも知れぬ危機。このままでは経営が立ちいかない。なにより映画館とカフェと書店が合体した稀有な存在である「出町座」が育んできたミクスチャーな文化が途絶えてしまう。おそれを感じた築地さんが考えたのが、「お取り寄せ」でした。
築地「出町座が忘れられないように、『誰かがこの建物のなかでつねに動いているんだ』と発信していかなければいけない。そのために発想を切り替えました。お客さんに来ていただけない状況ならば、お送りしようかと」
お取り寄せで店を動かせば、売り上げダウンを抑えられる。さらにSNSなどで発信し続けることで、「出町座が歩みを止めていない」と伝えられる。
自宅待機中の、画家でもあるスタッフに商品説明書に添えるイラストを描いてもらうなど、窮状だからこそできる、それぞれ才能を活かす取り組みをしていくことで、お店もブラッシュアップしていける。
そう考えた築地さんは、レトルトパックにした特製スパイスカレーや、砂糖を添加していないドライフルーツティー、蜂蜜漬けのいちじくなど全国へ向けて「お取り寄せ」受付を開始。
それを知った常連さんだけではなく、「いつか京都を訪れたら出町座へ行きたかった」という未来のお客さんまでが商品を購入したのです。
築地「出町座はいま、インターネット配信で映画を上映しています(2020年5月21日時点)。なので『スナック3種セットを食べながら家で映画を観るんだ』といってくださる方が少なくないんです」
築地「また、レモンジンジャーの原液を購入してくださったかたがTwitterで『ホットケーキにかけてみた』とつぶやいていて。しかもそれが、めっちゃおいしそうだったんです。
新しい使い方を見つけてもらえて嬉しかったですね。うちの店ではホットケーキは出せないので、お取り寄せをやってよかったなと思いました」
お取り寄せは、おいしいものを届けるのみならず、新たな味の世界を広げるクリエイティブなものへと発展していた様子。さらに築地さんは休映となったシアターを護るかのように、細心の注意を払いながら、店を開け続けました。
築地「カフェが営業をすると、出町座自体のシャッターを閉めずに済むんです。お客さんがテイクアウトでお待ちのあいだにも、次回上映のポスターやフライヤーなどに目を通してもらえる。ここに映画館があることをずっと忘れずにいてもらえる。
それに出町座の扉が開いていると、商店街を通る皆さんが『しんみりしなくて嬉しい』とおっしゃってくださいます。
大きな建物ですから、シャッターが閉まっていると商店街の雰囲気がさらに閑散としてしまうんです。なので、できる限り開けていたい。商店街の皆さんのおかげで私たちも成り立っているのですから」
そう、築地さんがカフェの店長になって感じたのは、映画館とのつながりの重要性のみならず、商店街との結びつきの大切さでした。
築地「商店街にいるから、お店や生産者さんたちが新型コロナウイルスのためにとても困っているのを肌で感じるんです。ライムやバジルなど飲食店がよく使う食材が消費されなくなっちゃって、フードロスがすごいんです。
なのでうちが買い取って、ドレッシングやポン酢にしてみたり、ジェノベーゼソースに加工してみたり。映画館だけではなく、私が好きなこの商店街に、そして出町柳という街に貢献したい。そんな気持ちがあるんです」
映画館と観客と街とをつなぐパイプ役として不可欠な存在となったカフェ「出町座のソコ」。築地さんは、たとえ新型コロナウイルス禍が過ぎ去っても「お取り寄せは続ける」といいます。
非常事態だからこそ見えてきた新たな食文化の物語がクランクインした、そんな気がしました。
- 出町座のソコ
- 京都府京都市上京区三芳町133出町桝形商店街 出町座内1F
- 京阪、叡山電鉄始発駅「出町柳駅」から徒歩約5分
- 9:00〜21:00(当面10:00〜19:00)
- 出町座のソコTwitter
- https://twitter.com/demachizanosoko
- 出町座のソコFacebook
- https://www.facebook.com/demachiza.no.soko/
- 出町座のソコInstagram
- https://www.instagram.com/demachiza_no_soko/
- image by:吉村智樹
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- ※本記事は現段階でのお出かけを推奨するものではありません。新型コロナウィルスの国内情報および各施設などの公式発表をご確認ください。