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2021/10/01

生活に欠かせない「下水道」の歴史

image by:photoAC

生活に欠かせない下水道。下水道は、私たちが調理や洗濯、お風呂などで使った水を流し、あるいは商業施設や工場で使われた水を流すために整備されています。

もちろん私たちがトイレで流す排泄物も下水道を通って流れていきます。その行き先は「下水処理場」。ここで汚れた水をきれいにして、川や海に流しています。

もし下水道がなければ私たちは、そもそも衛生的な生活を送ることができません。お風呂にも入れず、トイレの臭いも我慢しなければならないという生活になってしまうのです。

それだけではなく、下水道がなければ、雨水はひたすら街中に溜まり、水環境が悪化し、疫病が発生してしまいます。したがって下水道は私たちの生活に欠かせないとても大切な施設です。

お家を買うとき・借りるときに、宅地建物取引士から下水道の有無について重要事項説明を受けた記憶がある方も多いのではないでしょうか。

これは下水道がとても大切な施設であるがゆえに、不動産と関わるときには必ず説明を受ける必要があると法律で定められているからなのです。

モヘンジョダロの排水システムimage by:Shutterstock.com

そんな私たちが健やかに過ごすための、文字通り「縁の下の力もち」である下水道ですが、その歴史はとても古く、西暦前5000年に、メソポタミア文明が栄えた都市(ウル、バビロン)で作られたことに端を発します。

またそれから約2000年経過した西暦前3000年ごろ、現在のパキスタン南部、有名なモヘンジョダロでは、各家庭のお風呂場やトイレが街路の下水渠(げすいきょ=みぞ)に繋がっていて、その地域の必要に応じて大きさが異なっていたそうです。

現在の下水道管も、地域の世帯数に合わせてその口径が異なっていますが、それと同じですね。


それだけではなく、きちんと下水渠にはがあり、途中ではちゃんと沈殿池(ちんでんち=汚水の中から汚物のみを沈殿させて水を浄化させる役割)が作られていたそうです。

さらに西暦前615年ごろのローマ遺跡からもきちんと下水道の遺跡が見つかっていることからも、太古の昔から私たちの生活には下水道が必須であり、先人たちがとても大切にしていたことが分かります。そして文明もとても発達していました。

ロンドン、1859年の下水道の建設image by:See page for author, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

ところが西暦300年ごろから、寒冷化や耕地不足などを理由として民族大移動時代が始まると、人々は移動先の新たな場所で都市を作っていく必要が生じます。

当然、その新たな場所には下水道が整備されているはずもありません。少ない労力で、まずは食べていくことを優先するため、下水道の整備は後回しにされたようです。

当時の人々は下水を道路や溝に流して、自然の流れに任せていたので、コレラやペストが大流行しました。これではいけないと、パリでは1370年に、ロンドンでは16世紀に入って、やっと下水道が整備され始めます。

しかしまだまだ約4000年以上前のモヘンジョダロの先人たちには遠く及ばず、処理場もなく、川へ流すだけのものでした。

そして、いまからおよそ200年前、1800年代に入ってやっと、人々の生活排水を下水道に流すシステムがヨーロッパ各地でスタートします。

その背景には、産業革命で人々の働き方が変わって、都市部に人口が集中するようになり、より厳しい衛生環境が求められるようになったという事情が存在しています。

難波宮跡image by:photoAC

日本に下水道が登場するのは、約2200年前の弥生時代。やはり大きな集落に、下水道の跡がみられます。そして645年、歴史の授業で習った「大化の改新」の年に「難波宮」に排水溝が整備されました。

さらに水洗トイレが初登場するのは、なんと平安時代です。かなり進んでいますね。和歌山県にある高野山の「野玄式便所」がそれです。これは谷水を利用し、川の浄化作用を利用した水洗トイレだったそう。

安土桃山時代の1583年には大阪に「太閤下水」が作られます。現在は大阪市指定文化財になっており、いまでもその姿を見ることができます。

そして1884(明治17)年には東京に「神田下水」が作られ、現在のシステムに近い下水道網が整備されることとなり、これが全国へと広がっていったのです。

東京2020オリンピック・パラリンピックで来日したアスリートたちが、日本のトイレの綺麗さに驚いたというニュースが流れていましたが、個よりも和を重んじる日本人らしく、古くから日本人は下水道を整備して、街を清潔に保とうと努力していたことがうかがえます。

image by:徳永秀一郎

さて、生活に欠かせない「下水道」と私たちの世界を繋ぐトンネルである「マンホール」の世界をご紹介してきました。

UN-Habitat(国際連合人間居住計画)の資料によると、世界のし尿や生活排水の90%は未処理のまま放流されています。また国土交通省によると水系感染症の約88%が安全でない水や衛生施設を原因としており、毎年大勢の方が亡くなっています。

一方で現代の日本に住む私たちは、蛇口をひねればきれいな水どころかお湯まで出てくることがほとんどですし、汚れた水は下水道に流すこともできます。

トイレではレバーどころか、便器から離れるだけで水が下水へと流れていきます。これは決して当たり前のことではなく、とてもラグジュアリーなライフスタイルなのです。とても恵まれていること、そして縁の下の力持ちの日々の努力に感謝しつつ、水を大切にしていきたいものですね。

  • 参考:UN-Habitat「Sick Water ?」(PDF),国土交通省「下水道分野の国際展開に関する現状分析と課題」(PDF)
  • image by:徳永秀一郎
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不動産会社経営。2017年に北九州市から東京都へ上京。旅行好き×不動産好き=旅先で見る不動産大好き。

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