死者と共に暮らし、ミイラの服を着替えさせ…「トラジャ族」の大切な習俗
インドネシアのボルネオ島とマカッサル海峡を挟んで隣り合う、ヒトデのような形をした「スラウェシ島(セレベス島)」の山岳地帯にトラジャ族の人々が暮らしています。その民族が住む地方で伝わる習俗として、家族の遺体と一緒に暮らす文化があることをご存じでしょうか。
日本では、亡くなった人を火葬するため死者とともに暮らす文化はありません。そのトラジャ族の暮らす地方で伝わる、葬儀の習俗について紹介します。
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インドネシアの「トラジャ族」に残る習俗
トラジャ族が多く暮らすトラジャ地域はスラウェシ島の中央部、山岳地帯の一部です。『ブリタニカ国際大百科事典』によれば約60万人ほどの人口があって、そのうち約45万人ほどがタナ・トラジャ県に暮らしているのだとか。
そもそも「トラジャ」とは、湾岸のまちに暮らす人たちが、山に暮らす人たちを自分たちと区別するために呼び始めたとされています。平凡社の『世界大百科事典』によれば「トラジャ」とは「山地人」「山奥の人」といった感じ。
このトラジャ族の人たちには独特の死者のおくりかたがあり、タナ・トラジャ県のなかでも、県北部の人たちに色濃く見られる風習が特徴的なのです。
日本人のトラベルライターなどが、トラジャ族の多く暮らすタナ・トラジャ県のなかでも、県北部ではなく県の中央部、および(または)県南部の「風葬」を現地レポートしてくれています。
風葬とは、小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』によると、
<死体を埋葬せずにさらす葬法>(小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』より引用)
とあります。
タナ・トラジャ県中央部・南西部でもトラジャ族によって風葬は盛んに行われていて、集落の後背地や洞くつなどを利用して風葬されるようです。
具体的には、洞くつや鍾乳洞を利用して、岩をくりぬいて墓穴をつくるなどして、棺桶に入れた遺体を(身分の低い人によっては棺桶にも入れられず)安置します。
一方で、タナ・トラジャ県の北部の人たちは、また違った埋葬の方法を伝統として持っています。
葬儀を待つ故人をホルマリンで防腐処理して自宅に置いておき、葬儀後も定期的に墓から出して、ミイラ化した先祖の遺体をブラシなどで手入れを行います。そして着替えさせる、遺体を包んだ衣を換える、あるいはさらに包み重ねる習慣があるのです。