最近の米国人が「お箸」を当たり前に使いこなすわけ…外国人に「上手ですね!」は失礼にも

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2024/08/02

褒めているつもりでも、受け取られ方によっては相手を侮辱してしまう言葉があります。外国人に向かって「お箸の使い方が上手いですね」と言うこともその一例かもしれません

逆のケースを想像すると分かりやすいでしょう。日本人が海外旅行に行って、レストランで食事をしているときに、「ナイフとフォークが上手だね」と言われたら、バカにされていると感じるかもしれませんよね。たとえ悪気はなくても、失礼ではあります。

そもそも、箸にしても、フォークにしても、大人の人間が道具を使って食事をすることはとくに難しいわけではありません。小さな子どもがそれをできるようになったら、大いに褒めてあげるべきでしょうけど。

私はそのように考えていますので、上のようなセリフは誰に対しても口に出さないようにしています。それでも「最近のアメリカ人は箸を使うことに慣れているなあ」と心の中で感じることは多々あります。日本で見るアメリカ人ツーリストも、アメリカでアジア系料理のレストランに来ている人たちも、みな当たり前のように箸を使って食事をしています。

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私自身の記憶では、かつてのアメリカ人は必ずしもそうではありませんでした。私は1990年代中頃からアメリカで会社務めをしていましたが、同僚たちと日本料理レストランへ食事に行くと、「箸は使えないからフォークをくれ」と店員に頼む人が多かったものです。今はそんな人を見ることは少なくなりました。逆に「フォークだと食べにくいから箸をくれ」というリクエストの方が数としては多いのではないでしょうか。

外食に限った話ではなく、日用品を扱う店に行けば、食器売り場にはフォークやナイフのとなりに箸が並べて置いてあります。

大手ディスカウント・ストア『Target』内の食器売り場 image by:角谷剛

なぜアメリカ人の多くが箸を使って食事をするようになったのか。その背景を私なりに考察してみました。あくまでも私の周囲にいるアメリカ人を観察した内容に対しての個人的な印象であることをお含みください。科学的根拠も客観性もありません。

アメリカ人と箸:なぜ上達しているのか

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使用機会の増加

単純に日常生活の中で箸を使う機会が増えていることが最大の要素だと思います。要は慣れです。多くのアメリカ人にとって、箸はもはや未知のものではなく、エキゾチックなものでもありません。

日本料理の人気が高まっていることもその理由のひとつですが、それだけではありません。2本の棒を使って食事をする道具は日本唯一のものではないからです。中華料理でも韓国料理でもタイ料理でも箸を使いますし、むしろそうした他のアジア系料理からの影響の方が大きいかもしれません。


異文化への寛容

多様性という言葉は現在のアメリカ人にとっては魔法のキーワードです。自分とは異なる文化や伝統を尊重することに異を唱える人は社会から受け入れられません。

誰も自分が異文化に無頓着であるとは思いたくもなければ、他人からそう思われたくもないのです。箸なんて使えるか、とはなかなか口に出せない雰囲気ができあがっています。

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学びやすさ

何か新しいスキルを身につけようとするときに、インターネットでノウハウを学ぶことが容易な時代になりました。箸の使い方もその例に漏れません。試しにYoutubeで”How to use chopsticks”(箸の使い方)と検索してみてください。たくさんの動画がヒットするはずです。便利な世の中です。

世代交代

とは言え、やはり世代間である程度のギャップは存在します。ミレニアル世代と Z 世代のような若い世代の方がそれ以前の世代よりは箸を使うことにはるかに抵抗が少ないように感じます。

なにしろ日本のアニメやゲームで育った世代ですし、生まれたときから日本料理も箸も珍しいものではありませんでした。彼らが大人になれば、普通のアメリカ人家庭の中でも箸を使うようになっていくのではないでしょうか。

失礼にならないサービス

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少し古い話題ですが、日本の某コンビニストア・チェーンが無料で配布していたプラスチック製フォークを竹箸に切り換えることを発表しました。環境保全のためにプラスチック使用量を削減するためだということで、そのこと自体はとても有意義な試みだと思います。木でフォークを作ればいいんじゃない?とは思いますが、たぶんそれとは別の問題なのでしょう。

そのことよりも気にかかる部分がありました。報道によると、「箸に不慣れな海外のお客さま」にはフォークの提供を継続するというのです。

これなどは顧客に配慮しているようで、かえって失礼になってしまうのではないでしょうか。日本に長く住んでいる人はもちろんですが、観光客だって日本のものに触れたいから日本に来ているのです。箸を使うことだってその一部です。はじめから「不慣れでしょ」と決めつけなくてもよいでしょう。もし私がそう尋ねられたら不快に感じると思います。それに日本人だったら箸に慣れていると決めつけるのもおかしいと思います。

日本人か外国人かを区別せず、ごくごくシンプルに、すべての人に対して「ウチではお箸をお渡ししています。ご希望ならフォークに替えます」ではダメなのでしょうか。箸を使うことは、なにも日本人の特技ではないのですから。

 

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角谷剛(かくたに・ごう) アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大谷翔平を語らないで語る2018年のメジャーリーグ Kindle版』、『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。

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