【世界文化遺産】数学の天才が自宅に作った240年前の「世界最古のプラネタリウム」

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2024/08/09

プラネタリウムといえば、室内でゆっくり星空観察をできる場所として人気ですね。ですが昔のプラネタリウムは今のように暗い室内に光で星空を映すものではなく、惑星の動きを再現する模型のようなものでした。その現存する最古のプラネタリウムが、実はオランダにあるんです。どんな施設なのでしょうか?

世界遺産にもなった、世界最古のプラネタリウム

image by:Shutterstock.com

プラネタリウムといえば、家族連れはもちろんのことデートスポットとしても定番ですね。日本は特にプラネタリウムの人気が高く、設置数はアメリカに次いで世界2位。稼働中の施設は全国に297カ所もあるそうです(2023年12月現在。日本プラネタリウム協議会)。

ドーム型のスクリーンの内部に、投影機で星を映し出す「光学式」と呼ばれる現在のプラネプラネタリウムは、今から約100年前、1923年にドイツで発明されました。日本では1937年に大阪に設置されたものが最初です。

その後1958年に国産のプラネタリウムが発明され、現在では世界のプラネタリウム制作企業の大手4社のうち、3社が日本の企業です。

2023年9月に世界遺産入り image by:Harry Wedzinga/Shutterstock.com

ですが「プラネタリウム」という言葉は、実はもっと古くからあり、「プラネット(惑星)」を見る空間のことで、もともとは太陽系の惑星の位置や動き方を表すものでした。

その現存する最古の装置が、オランダにある「アイセ・アイシンガ・プラネタリウム(Eise Eisenga Planetarium)」です。2023年9月に世界文化遺産にも認定されました。

「アイセ・アイシンガ・プラネタリウム」はどんな場所?

昔の住居で、リビングの壁がベッドルームにもなっているプラネタリウムの小さい部屋 image by:福成海央

「アイセ・アイシンガ・プラネタリウム」は現在のプラネタリウムとは違い、ドーム内に投影するものではありません。個人の自宅の天井に作られた、太陽系の惑星の動きを再現した大型の模型なんです。

この家に住んでいたアイセ・アイシンガ氏が7年間かけて自作し、1781年に完成しました。屋根裏に仕掛けが広がり、大小さまざまな木製の歯車が少しずつ動き、惑星の模型をリアルタイムで動かしています。

驚くことに、これらはコンピューターもない時代に、アイセが全て計算で惑星の動きを導き出し、それを再現する歯車を自作したこと。そしてたった一つの振り子で全ての機械が動いているのです。


そして240年以上たった今も、定期的なメンテナンスやうるう年の調整などを除き、ほとんど修理や修正を必要とせず正常に動き続けています。

鉄の小さな杭が、精密な間隔で差し込まれた木のプレート image by:福成海央

プラネタリウムは、現在ミュージアムとして一般公開されています。プラネタリウムの部屋に入り見上げると、美しい青緑色に塗装された天井が広がります。そこからぶら下がる金色の惑星たち。目の前に広がるのは、まさに「今この瞬間の宇宙の縮図」。

太陽系の姿がこの小さな部屋の天井に再現されている様子は、非常に幻想的です。周囲には月日や曜日、時間を表す数々の暦がずらりと並び、もちろんこれらも惑星の動きと連動しています。

プラネタリウムを作った本当の理由

アイセの肖像画と机や設計図の再現 image by:福成海央

アイセはもともと羊毛業者でした。ですが子どものころから数学の天才で、なんと16歳の時に600ページにもおよぶ数学の本を執筆しています。18歳で天文学理論の本を書き、その本の中では1762年~1800年にかけておこる日食と月食を全て計算で示しました。

そんな数学と宇宙の天才、アイセが30歳の時に太陽系の水星、金星、火星、木星と月が重なって見えるという珍しい現象が起こりました。

単なる惑星の動きの中で起こるものですが、当時は多くの人がそんなことは知らない時代。太陽がなくなってしまうのではとか、不吉なことが起きる前触れだとか、星が衝突してしまうのではと、人々は不安にかられ世の中は大きく混乱しました。

土星の輪や、衛星も再現されている image by:福成海央

そこでアイセは、模型にして目で見てわかりやすくすることで、誰でもこの宇宙の姿を理解できると考えました。正しく知ることで、正体のない不安に惑わされることがなくなるのではと思ったのです。

それまでも卓上型で惑星の動きを機械で再現する装置はありましたが、アイセはもっと大きく、天井に再現するアイデアを思い付きました。そして仕事が終わった夜に、少しずつプラネタリウムの制作を始めたのです。

完成後アイセは多くの人々を自宅に招き、プラネタリウムを見せました。評判は徐々に広まり、初代オランダ国王なども見に来るようになったのです。

そして多くの人がこの素晴らしい設備を後世に残すべきだと考え、アイセが存命中の1825年に国有化されました。そして1967年にはオランダの国家遺産に指定され、2023年には世界遺産となったのです。


プラネタリウムの部屋は、解説付きで見学

多くの歯車が噛み合って動く屋根裏の装置 image by:Shutterstock.com

この施設は現在、ミュージアムとして一般公開されています。プラネタリウムがある部屋はもちろん、屋根裏にあがって仕組みの部分も見ることができますよ。非常に精密でありながら、木や鉄で作られた手作り感あふれる装置に驚きます。

また館内には、宇宙に関する展示やアイセが愛用していた道具なども展示されています。個人的に館内で上映している映画がわかりやすくて印象的でした。アイセがプラネタリウムを作った当時の社会の様子などもわかり、彼の情熱をさらに感じることができました。

プラネタリウムの部屋では、スタッフによる約15分の解説を聞くことができます。基本はオランダ語の解説ですが、受付でお願いすると英語解説もしてもらえますよ。英語で解説をしてくれる時間帯を教えてくれるので、その時間に遅れないように部屋に行くようにしましょう。

ちょっと遠いけど、行く価値あり!

街並みに溶け込むミュージアムの外観 image by:INTREEGUE Photography/Shutterstock.com

ではアイセアイシンガプラネタリウムの予約方法や行き方をご紹介しましょう。

もともと個人の住宅なので、日本の科学館のような広い施設ではありません。そのため時間枠ごとの予約が必要です。夏休みなどは前日までに売り切れてしまうこともあるのでご注意くださいね。予約はこちらの公式サイトから行います。

さて場所ですが、オランダ北部のフリースラント州にあります。アムステルダム中央駅から「Intercity」という特急に乗り、北部のレーワールデン(Leeuwarden)駅に向かいます。そこから在来線に乗り換えフラネカー(Franeker)駅へ。駅から徒歩15分ほどでアイセアイシンガプラネタリウムに到着します。

アムステルダム中央駅からは電車で約3時間ほどかかります。なかなか日本人が行かない、ガイドブックでもあまり紹介されていないエリアなので、せっかくなら1泊してゆっくりオランダ北部の観光を楽しむのもいいですね!

ひとりの数学の天才が、自宅に作り上げた「世界最古のプラネタリウム」。真実をわかりやすく伝えたいという思いは、240年以上もの間絶えず歯車を動かし続け、多くの人々に宇宙の姿を見せてきました。天文ファン、プラネタリウムファンにとっては、一生のあいだにいつか訪れたい聖地のひとつです。

  • アイセ・アイシンガ・プラネタリウム(Eise Eisenga Planetarium)
  • Eise Eisingastraat 3 8801 KE Franeker
  • +31 (0) 517 – 393 070
  • フラネカー(Franeker)駅
  • 大人6ユーロ/小人(4歳~13歳)5ユーロ/小人(3歳まで)無料
  • 定休日:クリスマス/新年
  • 火曜~土曜10:00~17:00/日曜11:00~17:00/4月1日~10月31日の期間は月曜も開館11:00~17:00
  • ホームページ
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オランダ在住ライター。自然、文化、体験スポットを中心に執筆。オランダ国内や近隣各国など、これまで訪れた美術館、博物館などの文化施設は100カ所以上。元・科学館職員のミュージアムマニアです。

Website:オランダミュージアムめぐり

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