教えてスウェーデン、どうやって社会人のリカレント教育を成功させたか?
日本でリカレント教育が普及しない理由
最後に、リカレント教育という文脈である。リカレント教育とは教育と就労を生涯にわたって繰り返していく教育と説明することができる。
リカレント(recurrent)の意味は、「current(潮流・流れ)」に戻るの意味の「re」がついたもので「反復、循環、回帰」と訳せることができ、スウェーデンの経済学者であるレーンにより提唱された。
Aが仕事をしながら、教員免許の授業を受けているのはまさに就労と教育を行き来するリカレント教育である。最近になって日本でも注目されている教育概念ではあるが、いまいち広がりを見せないのはなぜだろうか。
スウェーデン社会でこれを容易にしている要因には、有給教育訓練制度の保障と労働時間が短いことがあげられるだろう。
教育訓練を受ける目的で、有給で一定期間職場を離れることを認めることが「有給教育訓練制度」であるが、フランス、ベルギー、イタリア、スウェーデンなどでは既に立法化されているが、日本ではまだのため、この制度がある企業は厚生労働省の調査によれば全企業の数%にすぎないという。
この制度が一般的ではない日本においては、大学への社会人入学制度や通信教育、自治体の生涯学習講座の受講などにとどまるのだろう。
また、そもそもの労働時間が長すぎることもまた、リカレントしたくてもできない要因であることは明らかだ。静岡県立大学で講義したときにこんなクイズを出してみた。
「 スウェーデンの会社員(男)の帰宅時間の平均は何時でしょう?」
A:18時
B: 19時
C: 20時
D: 21時
正解は…Aである。
これは 平成21年度に実施された調査結果であるが、今でも数字は大して変わらないであろう。男性・女性で帰宅時間は異なるが、スウェーデンの場合、午後3時から6時に帰宅時間が集中するのに対して、日本は、「家にいる」が4割超えなのに驚かされる。フルタイムで働く女性の場合は、4割が午後6時には帰宅できているが…。
日本人男性の帰宅時間は、午後9時、10時に集中しているが、このような状態でいつ教育にリカレントすることができるというのだろうか。そもそもも余暇の時間があまりにも少なく、かつ金銭的な支援もない中でリカレントを促すことには無理があるように思う。
Kに話を戻すと、就業と教育を行き来することができるのは、スウェーデン社会において、そもそもの労働時間が短いことと、有給教育訓練制度によるキャリアアップのための教育機会が確保されているからこそなのだろう。
加えて、スウェーデンは成人が余暇の時間に学びの場を自己組織化する活動であるスタディーサークルの伝統があり、政治的にも大きな影響力を持っているので教育にリカレントしやすい社会であることは明らかだ。
このように、Kはドイツ人という外国人でありながらもスウェーデン社会で就労し高い税金を納め、今では別のキャリアチェンジも模索するくらいになっているのである。
このような国を超えて、言語の壁を超えて、就労と学習を行き来するような「多様な生き方」を実現するには、単に「個人の意識」の問題ではなく、それを下支えする制度を整備することが必要であることがわかる。
このシリーズの続きでは、日本の大学生世代に当たるスウェーデンの若者の「ライフコース」を描いてみたい。
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