交通手段はトロッコ電車のみ。山奥の秘湯「黒薙温泉」
トロッコ電車以外に交通手段がない秘境の温泉地
下流の宇奈月温泉がある宇奈月駅から黒部峡谷鉄道に乗り、黒薙駅に到着しても、まだ安心はできません。駅そのものが急斜面の断がい絶壁に設けられていて、ホームの柵から転落すれば大変なことになってしまいます。下車後もホームに面した急斜面の山道歩道を20分ほど歩いて、黒薙川まで出なければいけません。
また、山道歩道は大部分が舗装されているものの、そこそこの高低差があります。奇岩や奇石もあり、歩いているとひょっこりクマも出てきそうな雰囲気なので、山に慣れない人だと少し不安な気持ちになるはずです。黒薙温泉の公式ホームページにも、今ごろの時期は日の入りも早くなり、
<山道歩道は街灯も無いため17時ころには暗くなります。夜行性動物も活動し始めますので、安全のため16時までには当館にご到着願います>(黒薙温泉公式ホームページより引用)
などと書かれています。夜行性動物も活動し始める…、なんだか物語の世界みたいですよね。
テレビもスマホも通じない大自然の中にある一軒宿
もちろん筆者は個人的に、黒薙温泉の名物である河原の混浴大露天風呂(水着やバスタオル着用可)での日帰り入浴を3度経験しています。しかし、富山に在住しているせいもあって、黒薙温泉の一軒宿に泊まった経験が正直に言えばありません。そのため宿泊体験がどれほど素晴らしいのか、人づてにしか聞いていないのですが、唯一の交通手段であるトロッコ電車の最終便が黒薙駅を出た後の時間からが、たまらなくいいのだとか。
宿には共有のスペース以外にテレビがありません。Wi-Fiも設置されておらず、携帯電話もスマートホンも不通になります。その気になれば文明の物音が一切聞こえなくなります。音楽好きの知人から言わせれば、他の宿泊者が寝静まる時間になると、ジョン・ケージの無音の音楽「4分33秒」を視聴しているときのように、聴覚がひどく鋭くなっていくのだとか。そのうち黒薙川の水流の音が自分の奥底にある何かを揺さぶり始めて、なぜかひどく孤独になり、心が落ち着かなくなると言います。山深くのどこか遠くで響く、獣たちの声まではっきりと聞こえるようになるとも言っていました。
「そんな場所、泊りたくない…」
と感じる人も居るかもしれませんが、隔絶された世界で自分の中にある深遠さを見つめる経験は、忙しい現代にこそ必要なのかもしれません。それほど大げさな言い方をしなくても、同地は秘境の雰囲気を楽しめる上に、温泉も熱くて爽快で、トロッコ電車にも乗れますから思い出いっぱいの旅行になるはず。ちなみに冬季はトロッコ電車が不通になりますので、今年の秋のうちにぜひとも出かけてみてくださいね。
- 黒薙温泉
- 富山県黒部市 宇奈月町黒薙
- 0765-62-1802
- お電話ご予約 平日 8:00~17:00
- https://www.kuronagi.jp/
参考: 追録 宇奈月町史 歴史編 – 宇奈月町役場, 富山いで湯風土記 – 北日本新聞社