【歴史ミステリー】なぜ「五重塔」は、いまもなお全国で造られるのか?
全国にある江戸時代以前に建立された五重塔リスト
前置きが随分と長くなっていますが、塔を建てる行為そのものが仏の供養にあるという知識を持つと、五重塔を鑑賞するまなざしも変わってきますよね。
五重塔は塔であり、塔は卒塔婆で、ストゥーパという盛土の墳墓から来ていると述べました。まんじゅうのような形をしたインド式ストゥーパのてっぺんには、傘のようなふたがかかっています。
こうした特徴はもちろん日本の五重塔も引き継がれていて、五重塔のてっぺんに相輪と呼ばれる装飾が突き立っている理由も、五重塔がインドのストゥーパを起源にしている証拠なのですね。
例えば江戸時代までに建立されて、現在も残っている五重塔は全国に22カ所あります。そのすべてが国宝か重要文化財に指定されていますが、竣工の歴史が古い順に並べると以下のようになります。
- 法隆寺(奈良県)
- 室生寺(同上)
- 醍醐寺(京都府)
- 海住山寺(京都府)
- 明王院(広島県)
- 羽黒山(山形県)
- 厳島神社(広島県)
- 興福寺(奈良県)
- 法観寺(京都府
- 瑠璃光寺(山口県)
- 本門寺(東京都)
- 妙成寺(石川県)
- 法華経寺(千葉県)
- 仁和寺(京都府)
- 旧寛永寺(東京都)
- 教王護国寺(京都)
- 最勝院(青森県)
- 大石寺(静岡県)
- 興正寺(愛知県)
- 日光東照宮(栃木県)
- 妙宣寺(新潟県)
- 備中国分寺(岡山県)
これらすべての五重塔のてっぺんには相輪が飾られています。しかも五重塔には中心を貫く心柱があり、この心柱は建物を支えるためではなく、この相輪を塔の頂上に飾るためだけに存在しています。
数本の木材を使って30m近くの一本柱を作り、頂上に高々と相輪を掲げているのですね。
五重塔の中心を一本柱が貫いているという構造を考えてもわかるように、五重塔は五重という響きと見た目の特徴から受ける印象とは大きく異なり、フロアが5つには分かれていません。
各層に床はなく、実はものすごく天井が高い「1階建て」の建物なんです。もともとは聖者の墳墓である卒塔婆から来ていますから、上まで登って外の景観を楽しむといった建物では根本的にないのですね。
宮大工・小川三夫さんの言葉が『NHK美の壺 五重塔』(NHK出版)に紹介されているように、
<塔に登ると五年命が短くなる。塔の仕事に携わると、三代にわたって良いことが続く>(上述の書籍より引用)
と考えられる、神聖な建造物です。そのような建物に観光気分で土足で上がり込めば、命が短くなっても不思議ではないと考えられているのですね。