冬の教室、ガスストーブの前で。女子高生だった私の3年間の恋が終わった
私の気持ちを知っているはずなのにどうして、なんてことは、当時の私は思わない。少しでも、1秒でもいいから長く一緒にいたい。それだけだった。
山内くんは、彼女との待ち合わせまでの数分を私にくれたんだ。そんなポジティブなのかもわからない考え方。本当に、どれほど彼のことが好きだったんだろう。懐かしさがまさって、今ではあの激情を思い出せない。
「ずっと勉強しててシャーペン持ってたから、私も手かじかんでるわ」
全くの嘘をついて、私も彼の横にしゃがんでみた。教室は、山内くんと私のふたりだけ。それだけで私の身体の感覚なんて全部なくなっている。寒さも冷たさも感じない。
ストーブの周りに貼られたガムテープのラインの上、とにかくギリギリまでストーブに近づいて、私は山内くんと並んで、手を温める。ぺちゃくちゃと取り止めもない話に花を咲かせる。
普段は先生に怒られるから、みなガムテープのラインより内側には入らないようにしている。でも、きょうはもう誰もいない。会話が弾み、互いの距離が近づくのと同じペースで、私たちは少しずつストーブに近づく。少し、いつものラインを超えて。
「これ、触ったら熱いんかな?」
「さぁ?触ってみたら?」
そんな冗談を言い合いながら話していると、不意にどこからか布が焦げたような臭いが。
「え!?」
「やば!」
ふたり同時に声をあげて、いつものラインに後ずさる。ストーブに近づきすぎて、いつのまにかスカートの裾を焦がしてしまっていた。
もちろん、同じだけラインを超えた山内くんのズボンも、ちょっぴり焦げている。
「うわぁ、やっちゃったなあ」
「アホやなあ」
気づけばお互いの焦げた制服を見ながら、笑いあっていた。思えば山内くんのことを好きになってから、彼の前でこんな風に本気で笑うのは初めてだったかもしれない。
こんなに楽しい時間は初めてだった。でも笑い声をかき消すように、学校全体にチャイムが響き渡る。
これで、終わり。
高校3年間の想いがすべて詰まった私の幸せな時間は、冬の教室のストーブの前で、あっという間に終わってしまった。