ピアをめぐりながら、知られざる南カリフォルニアの「隠れビーチ」へ
ロサンゼルスからサンディエゴまでの地域、いわゆる「南カリフォルニア」といえば、青い空と海をバックに高いパームツリーが風にそよいでいる風景が思い浮かぶでしょう。
もちろん、この地域すべてが太平洋に面しているわけではありません。州内には広大な砂漠のような土地もありますし、冬には雪で覆われる山岳地帯もあるのですが、人々が南カリフォルニアに抱く一般的なイメージはビーチから離れがたく結びついているようです。長くこの地に住んでいる私もそう思います。
たとえば山間地でキャンプや日帰りスキーを楽しんだあとで帰宅するようなとき、私がよく利用するのは「インターステート15号線」です。
この高速道路は、遠くカナダのアルバータ州からアメリカ西部の各州を南下して、カリフォルニア州サンディエゴに至るのですが、南カリフォルニアに入ったところで「州道91号線」と分岐します。
私はいつもそこを通るたびに、高速道路の案内標識を見てワクワクする気持ちになります。
91号線を東に向かえば「リヴァーサイド(Riverside)」、西に向かうと「ビーチシティーズ(Beach Cities)」。私が帰宅するためには西方向に進みます。
複数形になっているように、「これからビーチに沿った町ばかりが集まった土地に帰っていくのだなあ」と、いまさらながら思うわけです。
正確には「ビーチシティーズ」とは行政上の地名区分で、「マンハッタン・ビーチ」、「ハモサ・ビーチ」、そして「レドンド・ビーチ」の3市のみを指しているのですが、私には南カリフォルニアで海に面した地域全体のことのように思えます。
なぜなら、この3市だけではなく、南カリフォルニアのとくに海に面した市の多くは地名に「ビーチ」がついているからです。
「ベニス・ビーチ」や「ロング・ビーチ」、「ニューポート・ビーチ」に「ラグナ・ビーチ」といった具合で、海岸に沿って車を走らせると、次々にビーチが現れます。
「ピア」を中心ににぎわうビーチは観光に最適
こうしたビーチの多くには「ピア(Pier)」と呼ばれる、桟橋が海に向かって突き出していて、その周辺にレストランやショップが並んでいます。人々は海風を感じながら散歩したり、サーファーたちを眺めたりすることもできます。
私は日本や遠方から友人が訪ねてきてくれたときは、まっさきにピアを案内することにしています。普段からたくさんの人がピア周辺に集まりますし、多くのイベントも開催されるからです。
たとえば「ハンティントン・ビーチ」のピアは、すぐ下の砂浜が毎年行われる全米サーフィン選手権の会場になりますし、ビーチバレーの世界大会が開催されたこともありますし、目の前の広い道路は「サーフ・シティ・マラソン」のスタート・ゴール地点になります。
「ベニス・ビーチ」のピア近くには、ボディビルダーの聖地と呼ばれる「マッスル・ビーチ」がありますし、「サンタモニカ・ビーチ」のピアには遊園地があります。
いわば南カリフォルニア各市でメインな観光スポットのひとつともいえるのがピアなのです。
ひっそりと隠れたような静かなビーチも
そうしたにぎやかなビーチの間に挟まるようにして、あまり知られていない静かなビーチが所々にあります。
人影もまばらとは大げさですが、地元メディアでもよく「隠れたビーチ(hidden beaches)」と紹介されるほど。
大抵はお店どころか自動販売機もなく、ライフガードもいません。その分、きれいなカリフォルニアの海を心置きなく楽しむことができます。
まるで秘湯探訪のようですが、こうしたビーチは本当に隠れているわけではありません。地名はちゃんと地図にも載っていますし、メジャーなビーチから距離的に遠く離れているわけでもありません。
それなのになぜ人が少ないかといえば、アクセスがやや困難で、多少の根性と体力が求められるからです。
こうした隠れビーチの多くは断崖絶壁の下にありますので、ビーチに辿り着くまでには長い急坂や階段を上り下りしなくてはいけません。
通常のハイキングとは反対で、行きは下り坂でやや楽なのですが、たっぷり遊んで疲れているかもしれない帰りが上り坂になります。「行きはよいよい帰りは怖い」のです。
1000段の階段がある!?穴場な「1000ステップス・ビーチ」
人気テレビドラマの舞台にもなった「ラグナ・ビーチ」のすぐ近くには、「1000ステップス・ビーチ(1000 Steps Beach)」と呼ばれる小さな、まるでプライベート・ビーチのような場所があります。
付近に駐車場はなく、そこへ行くには道路に車を停めて、そして1000段と呼ばれる階段を下りなくてはいけません。
もっとも、1000段とはかなり誇張した表現で、私が歩数で測ってみると片道225段しかありませんでした。
それでも大体10階建てのビルくらいにはなるでしょう。健脚者向けコースとまではいいませんが、ビーチサンダルで上り下りするのはややキツイ高さです。
何もないのが魅力の「クリスタル・コーブ」
「ラグナ・ビーチ」と「ニューポート・ビーチ」の中間にある「クリスタル・コーブ・ステイト・パーク(Crystal Cove State Park)」という州立公園は、自然保護のために観光開発が規制されています。
駐車場はありますが、そこからビーチに行くには、約200mほどの胸をつくような急坂を上り下りしなくてはいけません。
きれいな砂浜と海が迎えてくれますが、逆にいえばそれしかありません。聞こえてくるのは波の音だけです。
ビーチボーイズもサザンオールスターズも流れていません。用を足したくなったら、また崖の上にあるトイレまで歩いて登らないといけないのです。
「ソルト・クリーク・ビーチ」で美しい夕日を
やや南に下った「ソルト・クリーク・ビーチ(Salt Creek Beach)」は、リッツ・カールトン・ホテルが隣接していて、隠れビーチとはいえませんが、やはり駐車場からはかなりの勾配がある長い坂を上り下りすることになります。
歩道の周りは整備された芝生になっていて、ビーチまで下りなくても日光浴やピクニックを楽しむこともできます。
ちなみにホテルの宿泊客には電動カートによる送迎サービスがあるそうです。
カリフォルニア州内には、他にも隠れビーチはたくさんあります。
どこが隠れていて、どこが隠れていないかには明確な線引きはありませんが、「hidden beaches」でWeb検索すれば、いくつかの地名がでてきますので、好みに合わせて(あるいは根性と体力に相談して)訪ねてみてはどうでしょうか。きっとお気に入りの場所が見つかると思います。
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