おばあちゃんの原宿「巣鴨」で、なぜ大学生が盆踊りで街おこし?
地域貢献は現代の大学に課せられた必須項目
鴨台盆踊りよりも前に大塚学長にお会いする機会をいただいたのは、大正大学の社会貢献・地域貢献活動に関する取材の一環でした。少子高齢化への流れと加速が歴然としはじめた21世紀初頭あたりから、全国の大学にとって社会貢献や地域貢献は、企業によるそれとはまた別の意味合いで、大きなテーマになっていきます。
実際問題、少なくなる一方の若者世代(受験生世代)が魅力を感じられる大学の在り方の一つとして、「この大学に入ってよかった」と思ってもらえるような、具体的に役立つ「学びの場」を提供できるか否かは、とても重要なポイントです。
それ以前の問題として、そもそも大学が長く存続し続けるには、立地する地域および自治体の理解・協力が不可欠です。地域の人々や自治体の理解・協力を得るには、大学自体に地域の一員であるという強い自覚が必要になります。地域に暮らす人々や企業と同じ視線で地域の課題を「我がこと」と捉え、地域の学問の府・大学ならではの貢献の姿勢を打ち出せなければ、現代では地域や自治体の理解・協力は得にくくなります。
大学が募集する定員より受験生の総数のほうが遥かに多かった時代には、薄くてもさほど問題のなかったそうした自覚を基に、学問のための学問だけでない、地域に役立つ学問を提供し、地域に貢献できる人材育成を目指すことは、現代に生きる大学には不可欠の姿勢といえます。
2004(平成16)年に国立大学が法人化され、国の支援を受けつつも「魅力ある大学づくり」に力を傾注するようになってからは、大学間の競争意識とともにその傾向が一層強まり、大学にとっての社会貢献や地域貢献の重要度はさらに増していきました。
かくして全国の大学は現在、さまざまな形で社会貢献・地域貢献の姿勢を打ち出し、実践しています。そのような観点からみた場合に、大正大学の社会貢献の姿勢、地域の商店街の振興に力点を置いた地域貢献、地域の人々との関係性は非常に興味のもてる事例です。
一つには大正大学が、僧侶の養成も担う仏教系の大学だということがあります。今年創立90周年を迎えた大正大学は、4宗派(天台宗・真言宗豊山派・真言宗智山派・浄土宗)が設立した大学です。歴史と伝統のある仏教学部には全学生の1割近くにあたる500人前後が学んでいます。卒業後は多くが僧侶となり、一部の学生が研究者などの道を歩みます。
4宗派が連合で設立したと簡単に書きましたが、これは宗教系の大学としてかなり特殊なことといえます。仏教の各宗派にはそれぞれのカラーがあり、基本理念の内容にも少しずつ差異があるはずです。しかし、それを乗り越え、運営母体である各宗派をつないでいるのは「『智慧と慈悲の実践』という建学精神」なのだと、大塚学長は語ります。
学内の公式行事には花会式(年間12回)、すがも鴨台花まつり(5月)、菊まつり特別法要、仏陀会(ぶつだえ)、成道会(じょうどうえ)など仏教にまつわるものも多く、地域の人々にはそのつど参加が開放されています。これに「鴨台盆踊り」などの学生が主体となって行われる地域参加の行事が加わるのです。
大正大学は建学以来、智慧と慈悲の実践としての社会貢献活動を随時行ってきましたが、主に東日本大震災を契機に、その形は大きく変わってきつつあるといいます。活動がより即時的になり、より地域に深く入り込んだ活動、より市民の立ち位置に寄り添った活動が増えていったのです。
その象徴が、東日本大震災以後ずっと続いている、被災地・南三陸町(宮城県)との深い連携・支援活動です。キャンパスの一角には、南三陸町から送られてくる特産の菊の花をはじめ、各種の産物やキャラクター商品などを扱うショップ「鴨台花壇」があります。またさまざまな大学が加盟する「東北再生《私大ネット36》」の一員としてのボランティア活動にも、学生や教師が随時参加するなど、今も多彩な支援が継続されています。
さらに注目されるのは、2014(平成26)年に設立された地域創生に関するシンクタンク「地域構想研究所」に続き、今年4月に新たに「地域創生学部」が立ち上げられたことです。
この体制を軸に、大正大学では今後、日本全体の地域活性化を担う人材育成を行い、地域問題に関する各種研究活動の推進、地域連携活動の推進、地域情報に関連する情報発信を手掛けていくとの姿勢を明確に打ち出しています。
地域構想研究所教授の北條規さんは、地域構想研究所および地域創生学部のミッションの1つとして、「日本社会全体の現状を見据えた上での地域創生に資する体制を整える一方で、ある意味ではそれ以上に、お膝元ともいえる巣鴨3商店街とのコラボなどによる地域活性化活動を重要視していきたい」と語ります。