おばあちゃんの原宿「巣鴨」で、なぜ大学生が盆踊りで街おこし?
商店街としての「これからあるべき姿」を共に模索
そうした動きの具体的な事例の一つとして注目されるのは、大正大学が呼びかける形で巣鴨の3商店街(前出の巣鴨駅前商店街・巣鴨地蔵通り商店街・庚申塚商店街)と連携し、2014(平成26)年に発足させた一般社団法人「コンソーシアムすがも花街道」の存在です。これは大正大学(地域構想研究所)と3商店街が地域課題を考えあい、連携しあいながら解決を目指すための組織といえます。
「不定期ながら年に数回の理事会を開催し、大学と地域が連携して開催するイベント等について合意形成を行っています。そのうえで大正大学のもつ各種の機能なども活用していただきながら、連携するべきところや、個別に対処法を考えたほうがいい場合など、ケースに応じたさまざまな方法で解決を目指していきます。まずはそれぞれの特徴がある商店街同士のすり合わせを行い、大学と地域の共通認識を持ちあいながら、より現実的な連携に向けた協働の雰囲気を醸成している段階です」(北條さん)
本格的な連携活動はこれからとはいうものの、東北の被災地から野菜や花を取り寄せ、キャンパス内で販売する「あさ市」に、東日本大震災や熊本地震の犠牲者への大法要、被災地への募金活動などを組み合わせた「すがも鴨台花まつり」の共催者になるなど、地域全体で活性化に取り組むための組織としての動きは、少しずつ具体化しはじめています。
大正大学が近年強化しつつある、こうした地域との連携姿勢について、地元の人々はどのように思っているのでしょうか。
7月8日の鴨台盆踊りの当日に話をうかがった庚申塚商栄会会長の浅賀政弘さんは、開口一番「ありがたいこと」と目を輝かせつつ、「そのぶん私たち(庚申塚商栄会)も少しずつ足並みを揃え、大正大学や他の商店街さんの期待に応えるとともに、連携姿勢を実のあるものにしていきたい」と語ってくださいました。
さらに庚申塚商栄会は加盟店舗数が3商店街のなかで最も少なく、人通りの量にも2商店街とはかなり差があるため、「大正大学さんからも、巣鴨駅前商店街さんや地蔵通り商店街さんからも、非常に気を遣っていただいているなと、いつも感じています(笑)」と浅賀さん。
庚申塚商店街の電柱にはフラワーポッドが吊り下げられ、常に美しい季節の花が咲いています。これは大正大学と庚申塚商栄会だけの連携事業「すがも花街道プロジェクト」によるもので、商店街およびキャンパス内の双方を常に花で飾ることにより、魅力的なまちづくりを行おうという目的で平成26年からはじまりました。
前述した大正大学と3商店街の連携による「コンソーシアムすがも花街道」の事業の一環ですが、大正大学としては3商店街のなかでもいちばん近い庚申塚商栄会とのコラボをまず行ったという結果になりました。
「みなさんに気を遣っていただいている」という浅賀さんの言葉は、こんな部分にも根差しているのでしょうが、下町ふうの街並みとゆったりした雰囲気の庚申塚商店街には、南三陸町から運ばれてきた季節の花が実によく似合います。常に人波が絶えない巣鴨駅前商店街や巣鴨地蔵通り商店街では、こうしたさりげないフラワーポッドは、逆にあまり生きないでしょう。
確かに3商店街を比較すると、他の2商店街と庚申塚商栄会とでは人通りの量にかなりの格差があります。しかし同時に、旧中山道に連続して立地している3商店街がそれぞれにもつ個性の違いも、実に明白なのです。
真ん中にある巣鴨地蔵通り商店街はご存じのように「おばあちゃんの原宿」の異名をもち、日本一有名、かつ日本一の集客力(昭和の終わりから平成10年頃までは、とげぬき地蔵・高岩寺の参詣客だけで毎年800万人もあったといいます)を誇る商店街です。
巣鴨駅前商店街はJR巣鴨駅や地下鉄巣鴨駅・西巣鴨駅の利用者、さらには巣鴨地蔵通り商店街に向かう人たちでいつも賑わっています。地蔵通り商店街はそれ以上に賑わっていますが、訪れる人のほとんどが観光(参詣)客で、200軒以上ある店舗のほとんどが観光客向けの飲食店や土産物店だという顕著な特徴があります。
それに対して人通りがぐっと少ない代わりに、庚申塚商栄会のお客さんのほとんどは、地域に暮らしている人々や働いている人たちであり、並んでいる商店も生活に必要な物販店を中心に、地域の人に向けた営業を行っているという特徴があります。
これは良し悪しの問題ではありません。商店街としての性格がまったく違うのです。そしていつも多くの人出でにぎわう巣鴨地蔵通り商店街においても、古くから商売しているお店の経営者ほど、いつもたくさん来てくれる参詣客・観光客への感謝の念を持ちつつ、参詣客や地域の人々が共に利活用し、生活に必要な物販店も決して少なくなかった昭和30年代ぐらいまでの商店街の在り方を「古き良き時代」と懐かしむ傾向が、まま見られるようです。
巣鴨地蔵通り商店街理事長の木崎茂雄さんも、著書『ぶらり、ゆったり、今こそ癒しの街・巣鴨』(展望社)に、今の活気を維持しつつ、もう少しバランスのとれた持続可能な商店街づくりへと向かうような、「将来あるべき道筋」の新たな模索と構築を、次世代の人たちに託す言葉を書いておられます。
所変われば品変わるで、地域の課題というものは、それぞれの環境に応じて千差万別です。同時に表面的には違ってみえても、根っこは同じという課題も珍しくありません。
性格のまったく違う3商店街にも、例えば少子高齢化や人口減少化、長引く景気低迷などの社会的要因は、平等にふりかかっているのです。「今」はどうあれ、将来的にはそれら平等にふりかかる要因が、共通した課題を一気に顕在化させることは十分に考えられます。
性格も立ち位置も違う、でも近代以前は同じ旧中山道沿いのひとつながりのエリアとして、旅人や地域に「癒し空間」を共に提供してきた経験をもつ商店街に、「みんなで一緒に地域全体の将来を考えよう」と大正大学が声をかける意義も、そこにあるといえます。
実は大正大学自体にも、少子高齢化や人口減少化などの社会的要因は同じようにふりかかっています。
いわゆる営業努力や学科構成の拡充化などの成果で、受験志願者数や学生総数は減少していないものの、少子高齢化の進捗とそれに拍車をかける大都市圏への人口の一極集中により、地方都市の寺院は今、小中学校と同様の統廃合が進みつつあります。そして大正大学仏教学部の学生の多くは、そうした地方に立地する寺院の子弟か関係者なのです。
先祖のお墓が並ぶ寺院と、次世代をはぐくむ器としての小中学校の存在は、コミュニティ形成の核といえます。老若男女あらゆる世代が共に地域で暮らし、揺り籠から墓場までの機能が連動して働いている小さな社会こそは、健全なコミュニティの成立要件です。
若者が都会に出ても、盆や正月には故郷に帰り、故郷に残る友人や家族と楽しいひとときを過ごすという循環が、かつては当たり前のようにありました。でも少子高齢化と人口減少化の波は、そうした循環を全国各地で破たんさせ、核としての小中学校や寺院の成立を難しくさせつつあります。
まだはじまったばかりではありますが、大正大学と3商店街が連携して進めようとしている、地域の課題への共通認識の醸成と、協働による課題解決のための方法の模索は、言葉を換えれば、それぞれ(個々)にとっても重要な、広い意味での「コミュニティの再構築」に向けた努力の一環ともいえるでしょう。