何もない贅沢。沖縄最北の地にひっそり存在する隠れ宿「空の間indigo」
荒れ放題の場所をゼロから切りひらき開拓
オーナーである柴田望さんが、ここに「空の間indigo」をオープンしたのは今から7年前のこと。福岡出身の彼女が何かに引かれるようにやんばるにやって来て、この地と出会い、約2年もの時間をかけて今のような形につくりあげたのだそう。
ログハウスとコテージだけという小さな宿ですが、なんともぬくもりにあふれる居心地のよさは少しずつ口コミで広がり、やんばるのユニークな宿として知る人ぞ知る宿になっています。
「もともと宿をやりたいとか、カフェをやりたいとか、そういうのがあって土地を探していたわけではないんです。ただこの地に出会ったときに何かものすごく特別なものを感じ、うまく言葉では説明できないのですが、本当に引き寄せられるように来てしまったんです」
最初に望さんがこの地に降り立ったとき、ここは森に閉ざされた場所だったと言います。地元の人たちには古くから特別に土地の力が強い場所として知られていましたが、自由奔放に枝を伸ばし巨大に成長した亜熱帯の植物たちと廃材やゴミに埋もれ、長い間人が寄り付けない場所になっていたのです。
荒れ放題になっているこの場所をなんとか風通しのよいものにしなければと、一念発起した彼女がゴミを捨て、枝や木を切り、道を作り、庭を作り、小屋を建て…。周囲の協力を仰ぎながらとはいえ、それは文字通り“開拓”と呼べる作業。
「この場所を切り開いたときの話をすると、なんともうまく説明がつかないのだけど、とにかく自分ではない何かの力に動かされた感じです。普通に考えたらまさかゴミの山だらけになっている森を女ひとりで開拓しようなんて思いません。とにかく無我夢中でひたすら身体を動かし、見えない力に押されながらひとつひとつ作りあげていったら、気が付いたときにはここが出来上がっていたという感じです。それで、出来上がってからどうしようかと考えたら、宿にするのがいいんじゃないかと思って」
と「Indigo」の成り立ちについて語る望さんの話を聞いているとなんとも不思議な気分になってくるのですが、それを体験しているご本人自体も不思議だと思って話しているので、つまりはこの場所のすべてが不思議なんだということで腑に落ちます。
県道脇の海へと続く抜群のロケーションにもかかわらず、長い間荒れ放題になり放置されていたこと。これまでこの場所をなんとかしようと思い開発を進めた人は幾人もいたけれど、そのどれもが上手くいかなかったこと。
見えない力に引き寄せられるようにやって来た望さんが、なぜだかわからないけどこの場所をなんとかしようと思ったこと。
初めてだらけのことにも関わらず土地の所有者からの許可もすんなり降り、森を切り開き、道を作り、気が付いたら小屋まで建ててしまったこと。
そして、現在「空の間Indigo」は望さんとその旦那さんである憲二さんのお二人で営まれているのですが、憲二さんのもともとの職業が建築家であるということも不思議です。
お二人が出会ったのはこの場所がすっかり出来上がってからのことで、1人旅で沖縄に来ていた憲二さんが海辺に迷いこむようにやって来きたのがきっかけだったそう。
話を聞いていると、どうせなら森を切り開くときに男手があれば助かるし、建築のノウハウを持っている憲二さんの腕前を発揮する絶好の場だったように思いますが、森が切り開かれたからこそ憲二さんはこの場所に迷い込んできたわけなので、やっぱり色々と不思議なご縁がつながって今に至っているのです。