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ハノイ名店の「フォー」がなぜ東京に?国も時空も超えた愛の物語

岡田すみえ
岡田すみえ
2019/05/25

ついにオープン、そして男泣きの訳

オープン前にティンさんに再来日してもらい、最終チェックを進めていたところ、ひとつだけ食材でしっくりこなかったフォーの麺が、オープン前日に希望のものが見つかりました。

それまでは日本で流通しているものをすべてチェックしてもらっていたのですが、いまいち納得していなかったというティンさん。

そこへ飛び込みで営業してきた麺をチェックしたところ、ティンさんが「これだ!これを使いなさい」ということで即採用したのです。

ただし、明日のオープン日までに希望の量が届けられないということで、工場のある蛯名まで車を走らせ麺を調達することしました。

「もう、ティンさんのこだわりがすごくて。でも、僕たちはティンさんが監修するということをとても大切にしているので、可能な限り応えるようにしています。トラブルも勃発していましたけど、もう忘れちゃいましたね」と、大変な状況を思い出しながらも、墨さんは常に笑顔。

オープン前には、ハノイでの修行風景やお店を作る過程を2018年12月からSNS上で発信し続け、「どうせならみんなを巻き込んでやろう」と、店内の土壁を塗るボランティアを募り、みんなで壁塗り作業などをしたそう。

「あそこの壁を塗ったのは私…という風に、お店に対して愛着が湧くじゃないですか」と墨さん。こうして多くの人を巻き込んで迎えた2019年3月9日、遂にオープンの日を迎えます。当日、店の前にはハノイの名店の味を求めて、150人もの人が行列を作っていたのです。

オープン初日のこの熱狂的ともいえるにぎわいに、閉店と同時にティンさんと墨さんは思わず抱き合って泣いたそうです。

「ハノイの本店の名に傷をつけたくなかったし、こんなにもたくさんの人が来てくれて、僕たちのやったことは間違ってなかったと。これまでの緊張の糸がプツリと切れたように、涙があふれてきました。みなさん『美味しい』といってくれるのですが、『この味を日本に持ってきてくれてありがとう』といってくれる人がたくさんいて、これがまた嬉しかったですね」と話してくれました。


フォーを食べるのに1時間半待ち。スープが完売してしまったら、お断りしなくてはならない。

こんな状況が1カ月も続き、店を訪れた人がTwitterで呟いたり、ベトナムのテレビ局が取材に来て国営放送でも紹介されて、日本にいるベトナム人コミュニティーにも同店の名は一気に広がりました。

ハノイで食べたたった一杯のフォーを日本で広めようと、実に5年の月日をかけて出店した墨さん。

この先はと尋ねると、「僕はフォー屋をやりたいわけではありません。ティンさんのフォーを届けフォーを食べる文化を発信していきたいと考えています。フォーがもっと日本人に当たり前になって、そのキッカケになったと10年後くらいにいえたらやった甲斐があったかなと思います」と語ります。

まだまだ、ティンさんのフォーに対する思いは尽きないようです。

伝統を受け継いだその気になる味は?

ハノイでよく見かけるフォー image by:JNEZAM/Shutterstock.com

もともとフォーはベトナムのハノイが発祥といわれています。多くの場合、鶏や牛から出汁をとった透明なあっさりとしたスープに麺を入れ、茹でた鶏肉や薄切りの牛肉、ハーブや生野菜が具材として乗っています。

本場とされるハノイでは、肉のほかにネギを入れる程度のシンプルな盛り付けが多く、フォー・ティンのフォーもまさにこのネギたっぷりのシンプルな盛り付けです。

ハノイ本店では、結構パンチのある味わいのスープを提供しています。しかし、ここ東京・池袋の2号店では、このスープを出していません。

というのも、ティンさんから創業時の味を出してほしいといわれているからだそう。ハノイはこの創業の味で、最初は苦労しながら皆に愛されてたくさんのお客さんが来るようになった経緯があります。

だからこそ、日本人向けにカスタマイズした味ではなく、いまの本店の味でもなく、ティンさんが大切にしている味を提供することにしたのです。まさに時空を超えて復活した味といえるのではないでしょうか。

仕込みに8〜9時間はかかるというスープですが、牛骨など動物の骨から取り出した荒々しい味のスープと、ティンさん直伝のさまざまな材料から取り出すまろやかなスープが混ざり、コクがありながらも上品でさっぱりとした味に仕上がっています。

ティンさんが愛したフォーと、そのフォーに恋してしまった墨さん、そして数え切れない人がこのお店に携わったストーリーが隠し味となって沁み渡ったからこそできた一杯。

どこまでも澄んだこのスープを飲み干さずにはいられない、深い深い味わいのフォーです。ぜひ、国も、時空をも超えた伝統の味を食べに、池袋へ足を運んでみてください。

  • フォー・ティン トーキョー
  • 東京都豊島区東池袋1-12-14 ハヤカワビルB1F
  • 03-5927-1115
  • 池袋
  • 料金
  • 日程
  • 平日 11:00〜14:00、17:30〜21:00/土日祝 11:00〜14:30(※スープが完売した段階で閉店)
  • http://phothin.co.jp
  • メニューは牛肉のフォー(840円)のみ。大盛り+100円。パクチー抜きやお子様フォーも用意

※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。

※一部誤字を修正いたしました。(2019/05/29)

旅をこよなく愛する編集者。情報誌やエンタテインメント誌、ビジネス誌などで編集・ライターとして経験を積み、中国上海、カンボジア・プノンペンでの在住経験も有。2015年に帰国してからフリーライターとしてワークスタイルを確立。幅広いジャンルのテーマで執筆している。

ハノイ名店の「フォー」がなぜ東京に?国も時空も超えた愛の物語
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