美女にゾクっと…夏夜を涼む東京怪談さんぽ「本所七不思議」
片葉の葦/両国橋付近
江戸時代のころ、本所にお駒という美しい娘が住んでいた。近所に住む留蔵という男が恋心を抱き、何度も迫ったものの、お駒は一向になびかない。
ついに爆発した留蔵は所用で外出したお駒を追いかける。隅田川の入堀にかかる駒止橋付近でお駒を捕まえるも、声を上げられ抵抗されてしまう。
そして頭に血が上った留蔵は、背後から襲いかかり、お駒を刺し殺してしまうのであった…。
さらに殺すだけでは飽き足らず、お駒の片手片足を切り落とした挙句、堀に投げ込む留蔵。以降、駒止橋付近の堀の周囲に生い茂る葦は、なぜか一方向にしか葉が生えなくなってしまったという−−。

「片葉の葦(かたはのあし)」とは、一方向にだけ葉が生える不思議な葦のこと。この葦が題材となったエピソードはとても悲しいものでした。
のちにこの怪奇現象を知った留蔵が死んでしまったという陰惨な因縁説もあり、最後まで悲しい展開が待ち受けています。

悲しくも殺人現場となってしまった片葉堀跡は明治期に埋め立てられ、現在は公園になっています。そのまま堀として残されていたら、いまでも片葉の葦がみられたのでしょうか…。
落ち葉なき椎/旧安田庭園
平戸新田藩松浦家の上屋敷には、見事な椎(シイ)の銘木があった。しかし、なぜかこの木は葉を一枚も落としたことがない。
その噂はたちまち江戸中に知れ渡り、町人は非常に気味悪がって屋敷を避けるように。次第に松浦家の者たちも屋敷を使わなくなってしまった−−。

「落ち葉なき椎(おちばなきしい)」も、同じく植物にまつわる怪談話。ほかの話と比べるとなんともサラッとした、落ち葉にまつわるオチのない話でしたね。
椎は一年を通じて幹や枝に葉がついている常緑樹。もともと落ち葉の少ない植物ですが、それでも葉がまったく落ちない樹は存在しません。
お屋敷の樹ゆえに掃除がしっかり行き届いていた説が濃厚ですが、大名屋敷という庶民からは中をうかがい知れない特別な場所であったために、このような伝説が広がったと考えられます。

このエピソードは、現在の「旧安田庭園」の刀剣博物館がある場所にかつて存在した、平戸新田藩松浦家の上屋敷にまつわるもの。
実は、この平戸新田藩とは、さきほど「狸囃子」のときにも話題にあがった平戸藩の支藩。松浦家の一族では、普段から不思議なことがたくさん起こっていたのかもしれませんね。