多摩川の河川敷をひたすら走ると見えてきた「大田区」の意外な多様性
羽田から川崎、そして田園調布へ
多摩川下流域は東側が東京都大田区、西側が神奈川県川崎市に接しています。
羽田空港は東京側にありますので、私がホテルから出て走り始めるのも東岸になりました。
最初に行ってみたのは、神奈川県側に渡った「川崎大師」。羽田空港からは約5km離れています。もちろん、また走ってホテルに帰るわけですから、往復で約10kmということになります。
それくらいなら、日常的なジョギングの範疇ではないかと思います。
しかし、当時の私の精神状態はやはり普通ではなかったのでしょう。日を追うごとにどんどん走る距離が長くなっていったのです。
川沿いを走りながら、ずっと井上陽水氏の『リバーサイドホテル』を口ずさんでいました。冗談だと思うでしょうが、本当にそんな馬鹿なのですから仕方ありません。
私は大学時代に川崎市幸区というところに住んでいました。次の日はそこまで走ってみました。往復で約20kmくらいです。
川崎駅の近くですが、広い川原には「川崎競馬場練習馬場」というものがあり、サラブレッドが疾走しているところを見ることもできます。
さらに次の日は「田園調布」まで走って、そこから折り返しました。往復で約30kmを越えるほどに。羽田空港周辺も田園調布も同じ大田区内なのですが、ここまで来ると街の雰囲気はずいぶん変わります。
さすがは日本有数の高級住宅地です。樹木が綺麗に整備された公園もあります。そのころが盛りだった紫陽花の色までが、気のせいか他所より鮮やかに見えました。
大型犬くらいの大きさの馬を散歩させている人がいたので思わず話しかけると、ミニチュアホースという種類の馬なのだと教えてもらいました。
考えてみると、私は日本に着いてから10日ほど経っていましたが、他人と会話したのはそれが初めてだったような気がします。
もちろん、コンビニエンスストアの店員さんやホテルのフロントの人との業務的なやりとりは別ですが。
大田区を出て、世田谷区の二子玉川まで
そうこうしているうちに2週間の隔離生活も終わりに近づいてきました。
最終日はせっかくだから、できるだけ長く走ろうと思っていたら、田園調布も通り過ぎ、大田区と世田谷区の境もいつの間にか越えていました。
そして前方に田園都市線の高架線路と「二子玉川駅」が見えてきました。私は駆け出しサラリーマンのころ、この電車に乗って東京都内まで通勤していました。30年くらいも昔の話です。
「懐かしいなあ、昔は毎朝この満員電車に乗っていたんだよなあ。ネクタイまで締めて」そんな風に感傷に浸っていたら、今度は「国道246号線」が出てきました。
この道路も当時はよく行き来したものですが、川から眺めたのは初めて。
そろそろ引き返す頃合いだと自然に納得できたので帰路につきました。さすがに脚は疲れ果てていましたが、それでも走り切るしかありません。
ホテルに着くと、ランニングアプリの距離表示は43.8kmとなっていました。フルマラソンより長い距離を走ってしまっていたのです。
新型コロナウイルスと慈悲深い日本のお役人さまのおかげで、思いもかけずに貴重な長距離走トレーニングができたことに感謝しますとは大嘘ですが、多摩川河川敷から眺めた東京と神奈川のさまざまな風景は、いまでは良い思い出になっています。
転んでもタダでは起きない。それが旅ランナーなのです。
- 参考:東京都防災ホームページ「まん延防止等重点措置について」,外務省「新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について」,「水際対策強化に係る新たな措置(5)」(PDF)
- image by:角谷剛
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