多摩川の河川敷をひたすら走ると見えてきた「大田区」の意外な多様性

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2023/03/22

私には2021(令和3)年6月中旬の2週間ほど、「多摩川河川敷」を毎日のように走っていた時期があります。アメリカ在住が長い私ですが、そのころに一時帰国をしていました。

2021年といえば、新型コロナウイルスの水際対策というものが続いていた年です。基本的に海外から外国人は入国できませんでした。

私のような日本人帰国者も入国後は国が指定したホテルに隔離され、3日後のPCR検査の結果が陰性であれば、初めて外出が許されるというルールでした。ほぼ半分くらい、鎖国していたようなものです。

当時の政府の水際対策(令和3年度)によると、帰国後は検査を受け陰性だった場合、14日間の自宅・自主隔離などの待機場所で過ごさなくてはなりませんでした(ただし、人のいない早朝・夜の健康維持のための散歩などは禁止ではありません)。

外出が許されるとはいっても、検査後の残り11日間は自宅やホテルなどで自主隔離して、公共交通機関は一切利用しないという「宣誓書」を厚生労働省あてに提出させられました。

わざわざそのような時期に帰国したことについては、私は私なりに「不要不急」ではない、やむを得ない理由があったのですが、その理由は100%個人的なもので、本稿の本筋でもありませんので省略します。

image by:photoAC

とにかく、そのような理由で、私は帰国便が到着した羽田空港ターミナル内にあるホテルに2週間宿泊する羽目になりました。それも「ホテル内のレストランはなるべく使用しないでください」という、ホテル側からのお願いまで。

とはいえ、狭い客室で壁を眺めながらじっと何日間も閉じ籠っていると、それこそ病気になってしまいそうでした。

そこで陰性結果が出た私が選んだことは、人が少ない早朝にホテルから出て、健康維持のために周辺をジョギングすることだったのです。それだけが私に許された合法的な気晴らしでした。


当時の安倍総理大臣が3密を避けるようにと、国民に向けて要請したメッセージのなかで「いままでどおり、外に出て散歩をしたり、ジョギングをすることは何ら問題ありません」と、いっておられたのを記憶している人もいるでしょう。

※本記事は新型コロナウイルス感染拡大時のお出かけを推奨するものではありません。新型コロナウイルスの国内・各都道府県情報および各施設の公式情報を必ずご確認ください。

多摩川河川敷の歩道を「発見」

夜明けを迎える羽田空港の外周。image by:角谷剛

私はそれまでに羽田空港を利用したことは何回もありましたが、その周辺の地理にはまったく不案内でした。

道に迷っても、電車やタクシーに乗ることは許されていません。ですから、最初の何日間は空港からあまり離れないように、せいぜい5kmほど走って、また同じ道を折り返して帰ってくるようにしていました。

羽田空港周辺は、中小企業の町といった雰囲気が感じられ、アウトドア派の私にはあまり楽しいジョギングコースだとは思えませんでした。

多摩川から眺める川崎駅周辺。image by:角谷剛

何日目かに空港近くには「多摩川」が流れていて、その河川敷には歩道がずっと続いていることに気がつきました。

これなら道に迷う心配はありませんし、信号で止まることなく走り続けることができます。早朝の時間帯なら、人とすれ違うことも滅多にありません。

羽田空港近くの多摩川下流域。image by:角谷剛

こうして、私は多摩川河川敷を毎朝のように走ることになりました。東京湾河口近くから出発して、ひたすら北上し、ある地点で引き返す。そんなことを繰り返したのです。

「何てつまらないことを」と思う人もいるでしょう。私も普段ならやろうとすら考えなかったかもしれません。

それでも、そのころの私にとってはとても貴重な時間でした。

自主隔離という名の隔離生活は、やはり特別な状況だったのでしょう。大げさにいえば、私は走ることで自分の精神状態を崩壊から守ることができたように思います。

多摩川下流はまさに大河です。堤の上にある歩道から水面までは約100m以上離れているところも多く、広く川原には野球場やゴルフ練習場などが点在しています。

壁に囲まれたホテルの部屋で一日の大部分を過ごしていた私にとって、目の前に広がる広大な空間を眺めているだけで気分が解放されたのでしょう。

走ることが趣味で本当に良かった。もし私がカラオケとかクラブとかのナイトライフを好む人間だったら、あの隔離期間はとても耐えきれなかったのではないでしょうか。

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