市長が公の場で体重測定?議員が人質に?今でも続くイギリスのおもしろい伝統文化

Array
2025/01/29

海外旅行をすることが多い人、あるいは海外の人と話す機会の多い人は、日本に存在しない伝統習慣を繰り返し見聞きするなかで、驚いてしまった瞬間も少なくないと思います。

一方で、そうした風変わりな異文化に触れるからこそ、他国の人とのコミニュケーションは、何よりの楽しみにもなっているはず。そこで今回は、イギリスにフォーカスを当てて、ちょっと変わった伝統をいくつかピックアップして紹介していきます。

市長が公開の場で体重計に乗る

image by:raymond orton/Shutterstock.com

最初は、イギリスのハイウィカムにあるユニークな伝統から。ハイウィカムとは聞き慣れない地名ですが、ロンドンの北西約50キロメートルにある小さな街で、ロンドンとオックスフォードを結ぶ位置関係になります。

丘陵地帯に発達した街という側面もあって、ブナ材を使った家具製造が盛んです。ウィンザー・チェアの製作でも知られていますが、この街の市長に関するユニークな伝統で名前を聞いた人ももしかするといるかもしれません。

同所の市長は毎年、市庁舎の外で、公開体重測定に挑まなければいけません。その理由は、市民の払った税金によって体重を増やしていないか、ぜいたくしていないかを市民の手によって調べられるからですね。

その歴史は、中世にまでさかのぼるそう。体重計に乗せられた市長が適正な体重だった・私腹を肥やしていない場合は「And no more!(増えていない)」と計測者が叫び、体重が超過していた場合は「And some more!(増えている)」と叫ぶとBBC(英放送協会)でも紹介されています。

もちろん、この儀式が何か、決定的な政治力を持つわけではありません。いまでは完全に儀式化しており、実際の様子を見ると、笑顔と笑い声がいっぱいのイベントと化しています。

とはいえ「And some more!」と叫ばれた市長は野次とブーイングを浴びるそう。そう考えると、パフォーマンスでありながらも一定の効果はありそうですね。

煙突掃除人を結婚式に呼ぶ

image by:Shutterstock.com

皆さんにとっての幸運のシンボルといえば何でしょうか?四葉のクローバーだとか青い鳥だとか、流れ星などかもしれませんね。


イギリス人にももちろん、いろいろな幸運のシンボルがあり、日本人にとっては想像もつかない対象が幸運のシンボルだったりします。

例えば、煙突掃除人です。現在の日本では暖炉を持つ家が一般的ではありません。その意味では、銭湯の煙突は存在するものの、煙突掃除人もなじみのない存在で、国内で出会った経験のある人はほとんどいないのではないでしょうか。

しかし、イギリスを始め、寒さが厳しいヨーロッパでは、地方に行くほど一般家庭でも暖炉(まきストーブ)が普通にあり、煙突の掃除が定期的に必要とされています。

その業務を担当する煙突掃除人がイギリスでは幸運の対象になっているのだとか。

結婚式当日に見かけると幸せになれる」との言い伝えも存在し、煙突掃除人を結婚式にわざわざ手配するカップルもいるみたいですね。ちょっと驚きです。

写真は、イギリスではなく19世紀、イタリアの煙突掃除人image by:Wikipedia

ただし、煙突掃除人の業界は過去に、暗い歴史を持つようです。煙突の中を掃除するために昔は、貧しい家庭の子どもが従事していました。小さい体でないと煙突の中に入れないからです。

しかし、労働環境は劣悪でした。煙突掃除人は、社会の最下層に所属する人たちで、軽蔑されてきた時代もあったのだとか。

その悲惨な状況を改善しようとする動きが18世紀後半に生まれます。19世紀には、16歳以下の子どもの就業が禁じられ、その境遇も徐々に変わってきます。

20世紀の初めには、煙突掃除という特殊技能を持つ掃除人の評価が劇的に裏返り、豊かな料理と温かい暮らしを支える特殊な職能を持った専門家というイメージが決定的になります。結果、幸運をもたらす存在にまで地位が逆転したのですね。

その意味で、煙突掃除人を見かけると幸運になる、結婚式当日に煙突掃除人に投げキスをもらうと幸せになれるといったたぐいの言い伝えは比較的、新しい文化といえそうですね。

クリケット中にティータイムがある

image by:LilyRosePhotos/Shutterstock.com

イギリスといえば紅茶の文化を思い浮かべる人も多いはず。イギリス人のジャーナリストたちに聞くと実際は、もっとカジュアルに、いろいろなタイミングで、好きなようにお茶を楽しむ文化みたいなのですが、お茶を愛する文化の存在はなんであれ間違いがないようです。

しかも、その文化は、スポーツにまで入り込んでいる様子。例えば、国技のクリケットにも紅茶文化が見られます。

イギリス生まれと一般的に考えられる(フランス発祥との説も)このスポーツは通常、朝から日没まで試合が続きます。場合によっては3日間、最長で5日間も。

ほかの競技では考えられないくらい長い時間にわたって高い集中力が求められるため、ティータイムやランチタイムが競技の途中に設けられているのだとか。ちょっとびっくりですよね。

日本でいえば、将棋の対局中に、お昼ご飯やおやつを棋士が口にするイメージでしょうか。

平凡社『百科事典マイペディア』にも、英国古来の競技とされるクリケットについて、

<試合は数日間の日程で行われ,途中にティータイムやランチタイムもとられる>(『百科事典マイペディア』より引用)

といった説明が見受けられます。

しかも、このティータイムでは、敵味方関係なく審判も交えてお茶を楽しむ様子。客席の人たちもその時間、軽食やアルコールなどの飲み物が買えるスタンドで休憩します。

各種の百科事典によればクリケットはもともと、賭博の対象で、動作も粗暴な庶民の娯楽だったため、1447(文安4)年には、エドワード4世によって禁止令が出されるほどだったみたいです。

しかし、時と共にルールが整い、イギリス全土に広まって国技となります。現在では、紳士・淑女のスポーツの代名詞とまでいわれるようになりました。

その意味で、ティータイムを通じて、敵味方関係なく交流を深める作法が余計に、大きな意味を持つようになったのかもしれませんね。


バッキンガム宮殿では国会議員が人質になる

image by:HVRIS/Shutterstock.com

イギリスといえば、王室の存在を思い浮かべる人も少なくないと思います。このイギリス王室と議会の間では、現代でこそ完全に形式化しているものの、独特の「緊張関係」がいくつも残っています。

例えば、国王や女王が議会を訪れる際、議会の地下室に火薬や爆薬がないか王室の護衛が調べるといった慣習があります。

また、国王演説(女王演説)と呼ばれる儀式の際には、政権与党の大物議員が、バッキンガム宮殿で人質に取られるといった慣習まであります。

どうして、このような「物々しい」慣習が残っているのでしょうか。その背景にはいずれも、王室と議会の間で繰り広げられた歴史が存在します。

人質制度が導入された時期は1600年代。イギリス統一をめぐって王室と議会が争っている時代、清教徒革命のころは、国王チャールズ1世が議会で処刑された歴史もあります。

チャールズ1世image by:アンソニー・ヴァン・ダイク, Public domain, via Wikimedia Commons

そのころから、議会へ行けば殺されるかもしれないという雰囲気が王室に生まれ、人質を確保する取り決めが始まり、現在に至っているみたいですね。

もちろん、「人質」にとられる現代の議員は、お茶を飲みながら穏やかな時間を過ごすみたいです。しかし、議会には、チャールズ1世に対する死刑執行令状も展示されているなど、歴史はいまでも続いている様子。

その重みを考えると、仮にポーズであったとしても、人質に取られた議員は内心、どこか落ち着かない部分もあるのではないかと思います。

イギリスは歴史が長い国です。日本人(外国人)から見ると風変わりな伝統やしきたりが他にもたくさんある様子。皆さんもぜひ、どんな伝統があるか調べてみてくださいね。

いま読まれてます

翻訳家・ライター・編集者。成城大学文芸学部芸術学科卒。富山在住。主な訳書『クールジャパン一般常識』、新著(共著)『いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日』。北陸のWebメディア『HOKUROKU』創刊編集長。WebsiteTwitter 

 その他のエリア 「お子さまランチ」発祥の地はどこ?意外と知らない身近な食べ物の由来・歴史 ★ 582
 海外 「ディスカウント」の言葉に要注意。有名品こそ気をつけたい世界のお土産 ★ 21
 国内 「もったいない」はもう古い?海外で通じる意外な日本語ランキング ★ 122
 国内 「建築界のノーベル賞」を受賞した磯崎新の美しき国内作品7選 ★ 349
 名古屋 「月給18万、忍者急募。」に合格した忍びたちが、中部国際空港に参上! ★ 260
エアトリ こんなの初めて…絶景もグルメもたっぷり堪能「ニュージーランド旅」は今が最適
市長が公の場で体重測定?議員が人質に?今でも続くイギリスのおもしろい伝統文化
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
TRiP EDiTORの最新情報をお届け
TRiPEDiTORオフィシャルメルマガ登録
TRiP EDiTORの最新記事が水・土で届きます