運転席に誰もいない!?自動運転タクシー『Waymo One』利用で起きたハプニング

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2024/07/19

グーグル社が手掛ける自動運転タクシー『Waymo One』が今年の3月からロサンゼルス市内の限られた地域内で運用を開始しました。

スマホのアプリでタクシーを呼ぶと、運転席に誰も座っていない無人のクルマが迎えに来てくれて、完全自動運転で行きたいところへ連れて行ってくれる。支払いはあらかじめ登録したクレジットカードで済ませる。「ロボ・タクシー」と呼ばれるサービスです。

現在のところ、『Waymo One』の同サービスはロサンゼルスに加えて、カリフォルニア州サンフランシスコ、アリゾナ州フェニックス、テキサス州オースティンの4都市でしかアメリカ国内で利用できません。

私は自分がとくに新しいモノ好きではないと思っていますが、それでもクルマの自動運転というものには以前から強い期待と関心を抱いていました。だから『Waymo One』のニュースを知ると即座にアプリをダウンロードし、会員登録を済ませました。

しかし、同じような人は世の中に多いようです。登録はしたものの、長いウェイティング・リストに入れられて、利用を開始できますとの通知が来るまでに3カ月以上かかりました。

2024年6月21日(金)、念願の『Waymo One』初乗車が叶いましたので、その顛末を紹介します。

「大谷さん、ありがとう」

Waymo アプリのスクリーンショット。左:白く囲まれた地域がサービス圏内/右:予約見積もりページ image by:角谷剛

現在のところ、『Waymo One』の自動運転タクシーは利用できる地域がかなり狭い範囲に限られています。ロサンゼルスでは高速道路の走行すらしません。それでもダウンタウンを中心にサンタモニカやハリウッドなど、有名な観光スポットはかなり多くがカバーされています。

私はそうしたロサンゼルス中心部からはるか遠くに離れた郊外に住んでいますので、本来であれば『Waymo One』を利用する機会はまずないはずでした。

image by:OJUP/Shutterstock.com

しかし、ある偶然から絶好の機会がやってきました。妻の友人がロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平を観るために日本からやってきて、ダウンタウンのホテルに宿泊すると聞いたのは、『Waymo One』から利用開始可能の通知メールが届いた数日後のことでした。


「じゃあ、ホテルで待ち合わせて、ロボ・タクシーでドジャー・スタジアムへ行こうよ」とすぐに話がまとまったというわけです。そのために自分たち用の試合観戦チケットも購入しました。

ロサンゼルスに与えた大谷翔平の経済効果は莫大なものになると思われますが、私たちの『Waymo One』初体験もそのひとつに数えられるかもしれません。

ロボ・タクシーでドジャー・スタジアムへ向かう!はずだった…

『Waymo One』の車内 image by:角谷剛

いよいよ当日、ホテルのロビーからスマホで『Waymo One』のアプリを起動させます。乗車位置はホテル、行く先はドジャー・スタジアム。どちらもアプリの位置リストで検索すると出てくることはあらかじめ調べておきました。入念で完璧な準備です。と、そのときまでは思っていました。

image by:角谷剛

10分ほど待って、ホテル前の道路にやってきたのは屋根にカメラのようなものを乗せた白い乗用車。もちろん、運転席には誰も座っていません。私はクルマに詳しくないので、まったく車種に気がつかなかったのですが、後で写真を確認すると、なんとジャガーのEVでした。

クルマのドアはロックされていて、スマホのアプリで解除します。合計4人で乗車したのですが、私はユーザー特権を行使して助手席に座りました。車内の様子はコントロールセンターから監視されているようで、スピーカーから「後部座席右側の人がシートベルトをしていません」なんて注意されたりもしました。

「準備OKなら、スタートボタンを押してください」という指示に従うと、いよいよクルマは走り始めました。

『Waymo One』の車内パネル。目的地はDodger Stadium image by:角谷剛

都心部ですので、道路はとても混雑しています。人も車も交通量が多いうえに、路肩は路上駐車で溢れかえっています。電動キックボードで逆走してくる人までもいます。普段は郊外の広々とした道路でしか運転しない私から見ると、カオスと呼ぶしかない状況です。

そんななかをWaymoジャガーはスイスイと快走します。加速、減速、コーナーリング、すべてが滑らかです。急に割り込んでくるクルマがあっても、的確に車間距離を取ります。無人の運転席でハンドルが回り、右へ左へと次々に方向を変えます。もちろん交通ルールも守りますし、はっきり言って私の運転なんかよりずっと上手です。

助手席からの眺めはこんな感じ

「うおおおお」、「すげえええ」と車内は賑やかだったのですが、やがておかしなことが起きつつあることに気がついた人がいました。

まだまだダウンタウンの中を走っているというのに、あと1分で目的地に到着するというメッセージがパネルに表示されているのです。ドジャー・スタジアムの姿は影も形も見えてきていません。いくらなんでも、そんなに早く着くはずはないのです。

大谷翔平の壁画を見上げて、途方にくれた3分間

リトル・トーキョー内大谷翔平壁画 image by:角谷剛

やがてWaymoジャガーは路肩に完全停止してしまいました。「目的地に到着しました」と車内パネルにもスマホのアプリにも表示されています。

しかし、そこはただの街中の交差点なのです。奇しくも、その場所はリトル・トーキョー。少し前の記事で紹介した「大谷翔平の巨大壁画」が描かれたビルのまさに目の前です。

そりゃまあ、大谷選手の絵は見られますが、ここでドジャースの試合を観戦はできません。しかし、車内パネルは目的地に到着したから降車しろと指示し、クルマはうんともすんとも動きません。

ロボットと呼ぶべきか、AIと呼ぶべきか、正確なところはよく分かりませんが、とにかく彼にはこの路上がドジャー・スタジアムではないことが分からないようです。

車内パネルにはカスタマー・サービスと通話できるボタンがありました。すぐに繋がりました。多分、本物の人間だと思います。

慌てて状況を説明したのですが、彼女もそこが予約された目的地の住所に間違いないと言い張ります。カスタマー・サービス側からは何もできず、解決方法はユーザー自身がアプリで目的地の追加を行うしかないとのことでした。

image by:GagliardiPhotography/Shutterstock.com

車内スピーカーの声に向かって、大声で喚いたり、同情心にすがってみたり、むなしい時間が流れました。時々、車外からはクラクションが鳴らされていることが分かります。なにしろ、交通量の多い路肩にずっと停車しているのですから、無理もありません。これ以上議論しても埒があかないことも明白でした。

もう一度、アプリで目的地「Dodger Stadium」を検索すると、ようやく謎が解けました。リスト最上位に表示されるDodger Stadiumの住所は「328 1st St.」。まさに私たちが連れてこられた場所です。

そしてリスト下に表示された「サービス圏外」セクションには別のDodger Stadiumがありました。こちらの住所は「1000 Vin Scully Ave.」とあります。

『Waymo One』 アプリのスクリーンショット。左:位置リストに表れる2つの“Dodger Stadium”/右:履歴詳細ページ  image by:角谷剛

お分かりだと思いますが、リスト下位のDodger Stadiumが本物です。このMLBでも屈指の歴史と人気を誇る球場は「1000 Vin Scully Ave.」にあるのです。

Vin Scully(ビン・スカリー)とは、半世紀以上にわたってドジャースの専属実況を務めた伝説的アナウンサーの名です。2022年に94歳で亡くなったスカリーさんの偉大な業績を称えて、ドジャー・スタジアムの住所が現在のものに改名されました。確かにそんなニュースを見聞きした記憶があります。AIだって知っているはずです。

それなのに、なぜかWaymoはリトル・トーキョーにある「328 1st St.」をドジャー・スタジアムの住所だと記録していたのです。理由は分かりません。大谷翔平壁画のせいかもしれません。

image by:Steve Cukrov/Shutterstock.com

ただひとつだけ、確信を持って言えることがあります。もしロサンゼルス市内のどこからでも人間が運転するタクシーに乗って、運転手さんに「ドジャー・スタジアムに行ってください」と頼んだとしたら、100人中100人がリトル・トーキョーにはやって来ないでしょう。

それに、正確な住所を知っていたにしても、そもそもWaymoのサービス圏内にはドジャー・スタジアムは入っていないのです。


それでも自動運転タクシーの未来に期待するわけ

ロサンゼルス・ダウンタウン走行中 image by:角谷剛

やむなくWaymoジャガーにはそこからお帰りいただくことにして、ライドシェア大手のUberに切り換えました。こちらは数分で人間が運転するクルマがリトル・トーキョーまで迎えに来てくれて、無事にドジャー・スタジアムへと私たちを運んでくれました。

「ドジャー・スタジアムに行くならUberが便利だよ」という記事を5年も前に書いたのは他でもない私です。初めからそうすればよかったのです。

image by:Around the World Photos/Shutterstock.com

トラブルを防ぐために念を押しておきたいと思います。

「2024年6月現在、『Waymo One』でドジャー・スタジアムには行けません」

それでも、私は自動運転タクシーがこれからも普及していくことを願っています。誰もが好きなときに好きなところへ行くことができる。障害者も高齢者も、単に運転が苦手な人も、クルマでの移動に不安がなくなる。そして誰も過剰労働をする必要がない。そんな明るい未来予想図を心の中に描いています。

私自身は根っからの文系人間ですので、技術的にはまったく役に立てません。世の中の理系の人たちにはぜひとも頑張ってもらいたいと思います。

image by:Iv-olga/Shutterstock.com

図らずも私たちの『Waymo One』初乗車は「トホホ体験記」のようになってしまいましたが、これに懲りず、また機会を見つけて乗ってみようと考えています。読者の皆さんにも及び腰ながらもオススメします。

と、ここまで書いてきたところで、新たなニュースが飛び込んできました。サンフランシスコでは『Waymo One』のウェイティング・リストが撤廃され、誰でもすぐに利用できるようになったとのことです。

「あくまで現時点では」と但し書きがつきますが、アメリカで自動運転タクシーを試すならロサンゼルスよりサンフランシスコを選ぶ方が確実なようです。

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角谷剛(かくたに・ごう) アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大谷翔平を語らないで語る2018年のメジャーリーグ Kindle版』、『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。

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