年間2億本を売り上げる!三重県が誇る井村屋「あずきバー」
1本60円に詰まるこだわり~独占潜入!あずきバー工場
井村屋の工場では1本60円の「あずきバー」作りに執念を燃やしていた。
1日1億粒を扱うという小豆の選別では、まず最初に特注のふるいで、決められた大きさの小豆だけに選り分ける。ふるいには、上下2層に違う大きさの穴があいた網がセットされている。欲しいのは上の7ミリの穴を通過し、下の5ミリの穴よりは大きい豆。このふるいを通る、決められた大きさのものだけが「あずきバー」に使うことを許されるのだ。
でも選別はまだ序の口。大きさの次は重さで選別する。選別機では下から風を吹きつけ、比重の軽い物を吹き飛ばす。これで小豆の皮や割れた物も取り除かれる。
選別は全部で5段階ある。最後に登場するのが最新鋭のマシン。空中を走る小豆を上下についたカメラで撮影。色のわずかな違いを識別し、規格にあわない豆をエアーで下へ落としていく。
これらの選別で1億粒の小豆の中から200万粒が取り除かれる。大きさや品質を均一にすることで、小豆を炊いた時の炊きムラがなくなり、美味しくなる。これが井村屋のこだわりだ。
ちなみにはじかれた200万粒もちゃんと役に立っている。小豆の一部をお年寄など近隣の人々のお手玉作りに提供。学校などに配られているのだ。
選別の次は小豆を炊く工程。ところがこれは撮影禁止。炊き方が難しい小豆はそのノウハウ自体が財産。見せないのもこだわりだ。
さらに炊き上げた小豆からアイスの元を作る、その材料にもこだわりが。「あずきバー」の原料は、小豆の他、砂糖、塩、でんぷん、水飴のわずか5種類。生産管理部の小井一浩は「通常のアイスクリームは安定剤や乳化剤を使って固めていますが、『あずきバー』は添加物を使っておりません。それによって小豆がしっかり固まります」と言う。「あずきバー」といえば独特の硬さが特徴だが、このシンプルな原料が硬くなる理由だというわけだ。
生産ラインで次々に流し込まれる先は、おびただしい数のアイスの金型。するとすぐに周囲から凍り始めた。ここで1秒でも早く凍らせることが、「あずきバー」の美味しさを左右するという。
通常、小豆の粒が入った原料を型に入れると、小豆は徐々に下へと沈殿していく。これでは小豆が偏ってしまう。小豆をアイス全体に行き渡らせるには、できる限り早く固めるしかない。すぐに固める冷凍技術が、どこからかじっても小豆が入っている美味しさを生んでいるのだ。
そしてアイスの中心部、まだ凍っていないところをめがけて、棒が突き刺されていく。
1本わずか60円のあずきバーだが、様々なこだわりが美味しさを支えている。これが年間2億5800万本のロングセラーの秘密だ。
小豆を極めるプロ集団~創業120年老舗企業の挑戦
井村屋グループ会長の浅田剛夫が自慢の商品を紹介してくれた。「お赤飯の素」は、白米に入れて炊くだけで、まるで餅米で作ったようなモチモチの赤飯が炊けるのだという。
さらにチューブ型の商品「つぶあんトッピング」は、「名古屋の方はトーストにバターを塗ってあんこをのせるでしょう。缶を開けず、このまましぼり出せる商品はないかという発想でできました」(浅田)と言う。
井村屋のビジネスを支えるのは様々な小豆を使った商品だ。スーパーの売り場をのぞくと、定番の「ゆであずき」の缶詰に、お菓子売り場の「ようかん」。贈答用に人気の「水ようかん」も井村屋。ロングセラーの「肉まん」も、実は「あんまん」から派生した商品なのだ。
井村屋は小豆商品を武器に成長を続け、昨期も増収増益の最高業績をたたき出している。
「基本的には小豆のいろいろな食べ方を提案していくということです」(浅田)
都内のスーパー「東急ストア」中目黒本店で、井村屋が新商品の試食販売を行っていた。その名も「煮小豆」。見た目は小豆を煮ただけのシンプルな感じだが、今までにない切り口の小豆商品だ。
開発部では「煮小豆」の使い方を客に伝えるため、提案用のメニューづくりが行われていた。気軽に日々の食事で使ってもらうのが目的だ。
今、井村屋が取り組むのは、健康にいい食品としての小豆の商品開発。研究の結果わかったのは、「小豆は食物繊維が多く脂質が少ないので、ヘルシーな豆」(技術戦略部・近藤修司)だということだ。そんな中で、あるものに目を付けた。
様々な商品づくりで大量の小豆を使う井村屋。その行程で、毎日捨てていたのが煮汁。ところが、「小豆の皮に栄養成分アントシアニンやポリフェノールが多く含まれているのですが、煮汁に流れ出てしまいもったいない」というのだ。今まで捨てていた、煮汁に含まれる豊富な栄養成分を商品に生かせないか。そして開発されたのが、特殊な製法で、煮汁をそのまま小豆に閉じ込めた商品が「煮小豆」だった。
「これからは『煮小豆』のように小豆の素材の良さを生かす商品開発が出てくると思います。小豆を生かすということです」(浅田)
徹底的に小豆を追求することで、井村屋は成長してきたのだ。