幻獣たちのいるところ。築地本願寺に棲息する摩訶不思議な動物たち
講堂内にも聖獣たちの姿が
満を持して講堂内に立ち入ると、正面には黄金に彩られた立派な仏壇が飾られています。気を抜くと忘れがちになりますが、ここがお寺であることを思い出させてくれます。
しかしながら、やはりちょっと異質感を感じさせるのが、白い梁と柱。さり気なさを装いながらも、「コチラを見て!」と言わんばかりの存在感を感じます。近寄って行ってみると、やっぱりいました。朱雀、青龍、玄武、白虎の四聖獣です。
“ザ・幻獣”と言って良いくらい有名な幻獣達ですね。四聖獣の起源は中国とされており、世界の四方向を守る神獣と言われています。ちなみに、それぞれの担当する方位は、北が玄武、南が朱雀、東が青龍、西が白虎です。
ひとしきり精巧な四聖獣の彫像を眺めた後に講堂入口側を振り返ると、これまたお寺には似つかわしくない銀色のパイプが並んでいます。大きさからして、獣を呼ぶための犬笛では無いようです(当たり前!)。いったいコレは?
こちらは、パイプオルガンなのです。本堂講堂の壁面に設置された無数のパイプは、まるでヨーロッパの教会のような雰囲気ですね。このパイプオルガンは、1970年に、財団法人仏教伝道協会より寄贈されたもので、法要や結婚式などの行事や、ランチタイムコンサートなどの際に演奏されているのだそうです。
講堂を後にして、本堂の探検を進めると、ひっそりとした階段に辿り着きました。そうした静かな雰囲気の中、まるで竹取物語の一節にある「あやしがりて 寄りてみるに」といった感じで吸い寄せられ、そろりそろりと階段を上り下りしてみました。
すると・・・“痛っ!手を何かに噛まれた!”
と、そんな気分になって暗がりに目をやると、「うわぁ!」叫びたくなるギョロ目がこちらを見ていました!グロテスクと称されるこの彫像は、手摺りに噛みついたような状態で、階段上部からこちらを見下ろす異形のモノです。指を折り曲げた状態で手を前に置くと、本当に噛まれているような写真が撮れそうですね。
人なのか?怪物なのか?こうした摩訶不思議な彫像は、正に、伊東忠太氏の世界観を表しているようですね。
グロテスクに睨まれたドキドキ感を押し殺し、勇気を持って本堂内の探索を続けると、窓の外から綺麗な鳥の声が聞こえたように感じました。その雰囲気に誘われて窓際から中庭を除くと、半鐘が見えます。
実際には、鐘は鳴らされていないはずですが、綺麗な声が聞こえたように思えたのは、半鐘を支える鳳凰の存在感のせいかも。
2階の壁に安置されたその姿はやはり、半鐘の重さに負けない力強い肉感がありました。鳳凰といえば、建物の頂上に祀られているイメージがありますが、こうした壁際に安置されている姿は、なんだか斬新ですね。
伊東忠太氏が集めた世界の動物意匠が集約された築地本願寺は、現代の私たちが見てもエキゾチックで摩訶不思議、そして斬新そのもの。ここでご紹介した動物たちは一部ですが、それぞれ愛嬌のある雰囲気の中に精巧さを感じる彫像でした。
もしここを訪れる際には、ほかの動物たちも見つけ出してみてください。
【築地本願寺に棲む動物たち】
翼の生えた獅子像/牛/馬/獅子/象/孔雀/猿/鳳凰/グロテスク(珍獣、青龍・朱雀・白虎・玄武)
【伊東忠太が生み出した”妖怪”がいるほかの建物】
湯島聖堂/一橋大学 兼松講堂/靖国神社遊就館
伊東 忠太(1867年〜1954年)
山形県米沢市出身。明治から昭和にかけて活躍した、日本を代表する建築家。明治35年、建築を学ぶためにインド、トルコ、中国へ留学する。帰国後は東京帝国大学教授に就任。築地本願寺のほか、平安神宮(京都)、俳聖殿(三重県)などの重要文化財など、多くの建築物を手掛ける。妖怪が好きで、妖怪を描いた漫画なども描いていた。「妖怪研究」という書籍も発表。
- image by:梅原慎司
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