このままブームは終息?仕掛け人が語る「ふるさと納税の未来」
寄付金の7割が経由するお化けサイト
このブームに火をつけた仕掛人が、東京都目黒区のビルにあるトラストバンク。「信頼を貯める」という意図で名付けられ、創業5年で従業員は70人に。ふるさと納税の寄付額と比例するようにして急成長した。
メインの事業は、ふるさと納税の総合サイト「ふるさとチョイス」の運営。全国1788の自治体の情報を掲載。この制度で動く寄付金、総額2700億円のうち、なんと7割がこの「ふるさとチョイス」経由。ふるさと納税では圧倒的なナンバーワンサイトだ。
このサイトを作ったトラストバンクの創業社長、須永珠代は「ふるさと納税をすることで、地域で作られたオリジナルの品や首都圏では手に入らない特産品が送られてきます。それが醍醐味の一つかと思います」と言う。
「ふるさとチョイス」には全国の自治体が用意した12万点以上の返礼品が載っている。
返礼品はカテゴリー別に分かれていて、利用者は欲しい物から寄付先を決めることもできる。また返礼品のランキングもあり、人気の商品に一発でたどり着ける。例えばお肉部門の1位は佐賀県みやき町の九州産豚肉。1万円で4キロが届く。魚介部門のトップは佐賀県上峰町で、1万円でふっくら・うなぎの蒲焼が5尾。人気の高い季節のフルーツの1位は、信州産マスカット。1万円の寄付で2キロが送られてくる。
インターネットはちょっと苦手という人のための施設もある。東京・有楽町にあるトラストバンク直営の「ふるさとチョイスCafe」。ここではふるさと納税の仕組みや申し込み方などを、スタッフが顔をつき合わせて教えてくれる。クレジットカードでその場で決済することもできる。
こうした取り組みの効果もあり、「ふるさとチョイス」の会員数は増え続け、現在は157万人に達している。
地域の名産品が続々誕生~寄付額、日本一になった平戸市
「ふるさとチョイス」と4年前から手を組み、大成功したのが長崎県平戸市。3年前には14億円を集め、ふるさと納税の寄付額、日本一になった。その理由は、魅力的な返礼品を揃えたから。鮮度抜群の魚が何種類も味わえる「地魚の詰め合わせ」に、生産量が少ない幻の平戸和牛。豊かな自然の中で育てられた牛の肉は柔らかさが自慢だ。
そんな平戸に須永がやって来た。まず向かった先は地元の魚が集まる平戸瀬戸市場。手を組んだ自治体の様子を、自分の目で確かめに来たのだ。
ここには変わった返礼品もある。「ウチワエビ」は以前、地元でもあまり食べられていなかったが、今や平戸の看板返礼品になった。須永が「食べやすい形にして送ろう」とアドバイスし「ウチワエビのしゃぶしゃぶセット」が誕生、これが大人気となった。刺身とは違ったシコシコした食感が楽しめるという。
他にも、山形県天童市では須永が「オカヒジキ」に目をつけ、野菜セットに採用。同じ山形の三川町からは「モクズガニ」。こんな地方の隠れたお宝を発掘してきたのだ。
平戸では雇用も拡大したという。市場の流通部・松山貴充さんによれば、「5年前は従業員20人ぐらいだったのが、今では50人近くいます」と言う。ふるさと納税が成功すれば、地域の経済に大きなプラスとなる。
盟友とも言える間柄になった平戸氏の黒田成彦市長は須永のことを「原動力プラス触媒。須永さんと出会ってみんなが変わっていく。いい出会いに感謝しています」と評する。
返礼品で人気を得た生産者は、より工夫するようになる。平戸の果樹園「善果園」もその一つ。ご主人の近藤重雄さんは、柑橘の新しい品種「平戸夏香」を作り出し、地域の特産ブランドにすることに成功した。さわやかな香りと優しい甘みが特徴的なサマーオレンジ。この「平戸夏香」が返礼品として出るのは5月から7月までの3ヵ月間だけ。期間限定ということもあり、あっという間に品切れになるという。
「ふるさと納税で『平戸夏香』の販売量もだいぶ増えてきたし、丹精込めて作った商品がお客に届いて『美味しかったよ』と言われるのは、やりがいにもなる」(近藤さん)
近藤さんは新鮮な「平戸夏香」を使ったジュースも作っている。このジュースの入ったセットもふるさと納税の返礼品の一つ。さらに、ジュースを作れば量の搾りカスが出るが、これも地域で活用している。その行き先は「坂野水産」の地元の魚の養殖場。絞りカスから、新たな返礼品を作り出していた。その名も「平戸夏香ブリ」。搾りカスを粉々にしてイワシなどのエサに混ぜ込み、ブリに与えている。こうすると、「ブリの臭みもなくなって食べやすくなる」(「坂野水産」の坂野雄紀さん)のだと言う。身からはほんのり柑橘の香りが。平戸夏香ブリは、多い時にはひと月400品が出る人気返礼品となった。
こうしてトラストバンクと協力し、ふるさと納税に取り組んできた平戸市は、昨年度も16億円を超える寄付金を集めた。