このままブームは終息?仕掛け人が語る「ふるさと納税の未来」

TRiP EDiTOR編集部
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2017/08/14

無職・派遣から一念発起~「ふるさとチョイス」誕生のきっかけ

ある日、須永の元に急な来客があった。やって来たのは福島県庁生活環境部の職員たち。2011年の集中豪雨で、未だ一部不通となっている只見線。その復旧資金をふるさと納税で集められないか、という相談だった。復旧に必要な資金は81億円。5年間奔走してきたが、あと33億円が必要だと言う。

こうした問題を抱える自治体の関係者が、毎日のようにやって来る。

須永は群馬県伊勢崎市のサラリーマンの家庭に生まれた。東京の大学を卒業した時は就職氷河期。なんとか東京で働きたいと50社以上に応募したが、書類選考ではねられまくり、なんと全滅。仕方なく地元に戻り、自動車ディーラーの事務職についた。しかし、「私自身は働くことにすごく夢を持っていて、働く大人は格好いいという思いがあったんです。でもいざ働いてみると、会社の先輩たちはあまり楽しそうに働いていなかった。たったの1年で辞めてしまいました」という。

ところがそのあとは定職に就けず、塾の講師や結婚相談所のアドバイザーなど、ほとんどが派遣社員やアルバイトという立場で職を転々とする。30代ではリーマンショックもあり、1年間失業。その後はITベンチャーに勤務。ウェブデザイナーとして3年間で100以上のサイトを立ち上げるなど、ガムシャラに働いた。

「勤めていた会社では毎月の残業が250時間。睡眠時間を確保したいので、片道6000円かけて毎日タクシーで通っていたので、それでお給料がなくなる生活でした」(須永)

そんな順風満帆とは程遠い暮らしをしていた須永が、今の事業を始めるきっかけがあった。それはふるさと伊勢崎市に帰省した時に、父親と交わしたやりとりだ。須永はホットプレートの購入を頼まれ、地元の電機店を訪ねた。そこにはお目当ての商品があったのだが、値段が気になり、調べてみると通販サイトの方が安かったのでネットで購入した。

そのことを父親に報告すると、父は「それはダメだ。それじゃ地元に金が落ちないだろう」と嘆いたという。

「その時、私は父が何を言っているのか全くわからなかった。私の中の消費や購入に対する価値観は『安い』『早い』『楽』しかなかった。でも父は、それ以外にもどこにお金が落ちるかという価値観を持っていたということなんです」(須永)

自分の損得ではなく地域にお金を落とす。この考え方が疲弊する地方に目を向けるヒントになった。そしてたった一人で2012年、資本金50万円でトラストバンクを創業。「ふるさとチョイス」を立ち上げたのだ。


過疎の町に都会から移住~寄付金が地方を変える

サイトを作るにあたり、須永がこだわったのは寄付金の使い道から自治体を選べるようにすることだった。

ふるさと納税は課題解決のツールだと考えています。自治体はどういう課題があって、どういう町にしたいかを明確にすることによって、賛同した寄付を集める」(須永)

例えば佐賀県では糖尿病患者を救う研究費用を募り、7000万円が集まった。また岩手県の西和賀町では、2015年の土砂崩れで道の駅が休業に追い込まれた。この時は道の駅の代わりとなるキッチンカーの購入資金を募集。1000万円を集めて買った車は今も大活躍している。地域の産業を守ったのだ。

寄付金の使い道を明確にして、大きな成果を出したのは北海道上士幌町。主な産業は酪農と林業。典型的な過疎の町だった。しかし、「ふるさとチョイス」と手を組み希少な地元のブランド牛を返礼品の看板にして21億円の寄付を集めた。これは町民税の9倍だ。

寄付金の使い道は最初から一貫している。企画財政課の梶達さんは「一般寄付から経費を除いた全てを、子育てと少子化対策に活用させていただいています。都会から移り住んでほしいという思いもあって、子育てに力を入れております」と言う。

少子化対策で町営のこども園を作り、保育料はなんと無料にした。今や園児は140人に。待機児童はゼロだ。寄付金から外国人講師も雇った。絵本やDVDも大量に購入。こども園の給食は無料だ。さらにスクールバスの購入、高校生まで医療費は全額免除など、町に集まった寄付金をありとあらゆる子育て支援に投入したのだ。

2013年に始めた少子化対策は結果を出し、減り続けていた上士幌町の人口は増加傾向に。狙い通り、都会から移住者がやって来た。この10年で120人が移住。「ふるさとチョイス」と手を組んで、町の課題に一定の成果を出したのだ。

ブームの光と影~ふるさと納税はどうなる?

ふるさと納税に対して、収録前、村上龍は「短期的にはすごく地方に役立ったと思う。だけどこれは20年も30年ももつ税制ではないような気がする」と、疑問を口にした。

実際、寄付金を集めようとする自治体の間では競争が過熱。テレビやパソコンなど、高価で還元率が高い返礼品や、返礼品として送られてきた商品券の換金も問題になっている。

また、2000円の負担で済む寄付の上限は収入によって変わる。例えば年収500万円なら、2000円負担で済む寄付金額は6万円まで。これが年収1億円なら435万円に跳ね上がる。大量の返礼品が実質2000円で手に入るのだ。ふるさと納税は収入の高い人ほど得ができる仕組み。合法的な節税ではあるが、都会の住民が地方に寄付すれば、住民税が控除され、住んでいる自治体は減収となる。悲鳴を上げているのは、ふるさと納税による赤字額が多い、横浜市、名古屋市、東京都世田谷区といった都市部の自治体だ。

ふるさと納税ブームが過熱する中、国も動いた。今年3月、総務省は「返礼割合の高い品はすみやかに3割以下にするように」と通達。なりふり構わず寄付を集めようと、地域と関係のない商品や還元率の高い返礼品を送る自治体に対し、釘を刺した。

国がブームを抑えにかかったことで、自治体からは不安の声も上がっている。トラストバンクが開催した全国の自治体職員を集めた会議でも、「ふるさと納税がなくなってしまうこともあるのでは?」という声が上がっていた。こうした声に対し、長年取り組んできたトラストバンクの黒瀬啓介は「(ふるさと納税は)麻薬みたいなものだと思っていて、ふるさと納税なしでは生きていけないという構図になると非常に厳しいと思う」と語る。

返礼品の還元率が3割となり、ブームは終わりという見方もある。

須永はトラストバンクの今後について、スタジオで次のように答えている。

「私たちのミッションは『地域とシニアを元気にする』。人・モノ・お金・情報が、地域でも都市部でも循環しているのが健全な状態であるとしています。今のネットワークを活かしてこれ以外のビジネスにも発展していきたいと考えています」

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