壊れたアンプ、元開発者が直します。思い出も蘇る修理ビジネスの秘訣
モノへの愛着をつなぐのは修理の技
「ものづくり」とは文字通り、ものを作ることだ。イチからものを作り出す知恵と技術は素晴らしい。しかし、当然ながら、ものには寿命がある。全体は問題なくても、構成する部品が劣化したり、壊れたりすることもある。「ものづくり匠の技の祭典」を見ていて、もうひとつ、大事な技、おろそかにしてはいけない技が「修理」ではないかという思いに至った。
使い捨て文化が発達した日本では、修理するよりも新しいものを買ったほうが安いという時代もあった。今でも、そうかもしれないが。
しかし、資源には限りがあり、リユースが盛んに言われるようになってきた。モノには、それを購入した時代の記憶と愛着もあり、単純に壊れたからといって買い替えとはならない心理もある。その時、修理という技が発揮されるのだ。
修理ということで思い出した人たちがいる。1980年代のオーディオブーム全盛の頃に、山水電気というオーディオ機器の専門会社があった。特に、アンプの名門として知られ、パイオニアやトリオ(現在はJVCケンウッド)と並んで「オーディオ御三家」と呼ばれていた。
しかし、オーディオブームの衰退、進むデジタル化により経営が悪化、2012年に倒産した。困ったのは、ユーザーだ。当時は、いいアンプがほしくて、アルバイトで稼いだお金で、やっと手に入れたという人も多い。それが壊れたら、どうしたらいいのだろう。
開発者自身が修理に乗り出す
そこに、救世主が現れた。元山水電気の技術者3人で作ったオーディオアンプの修理会社だ。この会社「アクアオーディオラボ」を立ち上げたのは大島市朗さん(60代)、大塚哲男さんと横手正久さん(ともに70代後半)。
愛好家には、壊れたアンプをいつか修理して、好きな曲をあの音で聴きたいと、保管場所に苦慮しながらも持ち続けている人が多いという。だから、彼らはへたなこところには修理を頼みたくないと考える。自分たちのような、製品そのものを企画開発したメンバーが揃っていれば、安心してお客さんは任せてくれるはずだ。
案の定、クチコミなどで広がり、今では古いアンプを持ち込んでくる人が途切れることはない。修理に必要な機械類は山水電気に交渉し、手に入れてあった。部品も今のところ、なんとかなっている。一番頼りになるのは、むかしの仲間が持っている個人ストックだ。
最近はまた、アンプとスピーカーの音の良さが見直されつつある。新しいものがいつもいいものだとは限らない。人の心を打つものは新旧関係ないのだ。
そうした世界では、技術と経験とスキルが身についたシニア技術者たちが、密かに輝き続けるだろう。利用したい人がいる限り、技術は決して古くならない。
- image by:松本すみ子
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