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五輪前なのになぜ、有名旅館の「国際観光ホテル」登録抹消が続くのか?

飯塚玲児
飯塚玲児
2018/05/24

国内の観光業振興を目的に、訪日外国人旅行者が安心して宿泊できる施設を国が指定する制度等を定めている「国際観光ホテル整備法」。ところが最近、その登録から抹消されるホテルや旅館が全国で続出しているといいます。東京五輪を2年後に控え、外国人観光客を迎える宿泊施設のさらなる拡充が求められるこの時期に、どうしてこのような事態が起きているのか。 メルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』の著者で元『旅行読売』編集長の飯塚玲児さんが、その真相を解説しています。

国際観光ホテル整備法とはなんぞや?

僕は、一応これでも業界人であるもので、旅行業界人のための新聞である『旬刊旅行新聞』(旅行新聞新社刊)というのを購読している。 様々な情報が掲載されているが、最近気になって必ず目を通すのが、温泉宿の廃業情報だ。

温泉ファンにお馴染みの名湯の宿は、廃業などに関してもFBなどで情報が流れてくる事も多いのだが、そうではなくて、つまり循環フルコースの温泉提供をしているものの、宿としては各温泉地の顔となっているような有名旅館などが、知らないうちに負債数億円とかで民事再生法適用になっていたりすることも少なくない。 「えー! あの宿、潰れたの?」と驚くことも、最近では珍しくないのだ。 まあ、この種の大規模宿の場合は、大抵は銀行管理などの元に再生を目指して営業を続けるか、別の経営資本が入るなどで、宿としては存続する場合が多いようだが、どうなっているのか不明の所も多い。

で、前置きが長くなったけれども、その新聞記事に「登録 旅館・ホテル」というコーナーがある。 そしてそこには「観光庁が『国際観光ホテル整備法』に基づき、登録ホテル・旅館の新規登録、名称変更、登録抹消を公示した」とあり、それぞれの内容について宿名が並んでいる。

新規登録と名称変更に関しては、発展的変更なのであまり気にならないが、「抹消」ときくと、何か大きな不備、例えば経営的な問題があって、抹消されたのかと勘ぐってしまう。 でも経営破綻とは書かれていないわけで、すると、どうして抹消されたのか、ということが気になってくる。 すると『国際観光ホテル整備法』とはどんなものなのか、というところに行き着くわけだ。

で、ネットで調べてみると、要するに「外客宿泊施設の登録制度」「外客の利便増進のための措置」などを定めており、宿が申請し、登録されると、地方税(固定資産税)の軽減措置がある(全市町村ではない)というものである。

登録ホテル・旅館|観光産業|政策について|観光庁

で、前述の『旬刊旅行新聞』4月11日号に掲載されていた抹消宿の件数が、物凄く多い。 なんと40軒もある。 その中には『パレスホテル箱根』(仙石原)、『静峰閣照本』(箱根強羅)、『伊豆長岡京急ホテル』(伊豆長岡)、『白銀閣 華の宵』(越後湯沢)、『綿々亭綿屋』(新潟県岩室)、『ホテル小柳』(長野県浅間)など、かなりの有名旅館も名を連ねている。 上記の基準でいえば、つまりは外国人客をもてなす一定基準を満たさなくなった宿が40軒も一度に出たということになる。 この登録抹消の宿は月イチくらいで掲載しているので、どんどん減っている気がする。 あきらかに新規登録より抹消の方が多いと僕は感じている。

東京五輪を前に様々な対応が求められている時だというのに、この実態はどのような意味を持つのかどうか。 抹消宿はもちろん温泉宿ばかりではないのだけれど、もし、温泉宿が外国人客を迎えるにあたって、入浴習慣の違いなどから、対応に尻込みして自ら登録を取り消していたりしたら、と思うと、それは由々しき問題な気がする。


幸い、この新聞の編集長は知らない人ではないので、メールで事情を問い合わせてみた。 すると数時間で返信があり、こちらが憂いていた「温泉宿が外国人客を迎えるにあたって、入浴習慣の違いなどから、対応に尻込みして自ら登録を取り消していたりしたら、それは由々しき問題」ということは全然無いみたいで(とも言い切れないのだけども)、かなり安直な理由のようであった。 その回答に関しては、増田編集長のメールを以下に転載する。

「さて、国際観光ホテル整備法の抹消の理由につきましては、飯塚さんがおっしゃられたもの(宿に外客を担当する英語などが話せるスタッフがいなくなったのでは?)など、さまざまにあると思います。 でも、根底としては、登録することのメリットがあまり感じられないから、というのが大きいのだと認識しております。 若旦那への事業承継や施設の刷新などの際に、色々な書類を提出するのが面倒で、登録抹消を選ぶ施設も相当数あると思います。

また、登録してもしなくても外客誘客に大きな影響がないというのが、新規登録よりも抹消が増えている原因だと思います。 昨今の民泊などの隆盛も同法の無意味化(?)に関連しているのかもしれません。 固定資産税を優遇する自治体も、一部に限られているのが現状です。 個人的な感想が大きな返答となり、申し訳ございません。 何卒よろしくお願い致します」

というわけで、編集長は「個人的な感想」だと言ってはいるものの、実にわかりやすくて、納得できる理由なのである。 メリットがなければ、わざわざやらないよねえ、という気がした。 確かに、僕を始め、旅行業会の人間でも、登録されたメリットを知らない人の方が多いような気がする。

世界市場を視野に入れた宿、例えば星野グループが新規登録して、「すべての旅館が外客に優しいという政府のお墨付きをもらっています」的なアナウンスをするにはいいのだろうが、個人経営で面倒な手続きをして、税金優遇も受けられないようであれば、そりゃ、やらないっしょ。 

東京五輪を迎えるにあたって、こうした外客誘致策、あるいは多国語対応に関しては、もっと議論されるべきで、せっかくこういう法律があるのに、ほとんど無意味、というところに、国民(つまり我々)の血税が使われているかと思うと、正直言って、ムカついてしまう僕なのである。 その税金、もっと有効で実効性のあることに活用してほしい。 だいたい、宿の廃業が多すぎる。 何らかの形で、存続のための補助金に使ってほしいと思うのは僕だけだろうか。

image by: Shutterstock.com

【著者プロフィール】飯塚玲児/愛知県生まれ。紀行作家、郷土料理写真家。編集部記者として月刊誌の編集に携わりながら全国各地を取材。『クチコミおでかけ旅情報』編集長、創刊50年を誇る現役最古の旅行雑誌『月刊旅行読売』の編集長を歴任したのちに退職、独立。これまで編集した雑誌や情報誌は数100冊、過去に泊まった宿は800軒余、入浴した温泉は3000湯を超える。現在、週刊メルマガ「飯塚玲児の“一湯”両断!」と、記事単位で人気作家の記事が読める「mine」にも掲載。公式ブログ

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