【和束町】6メートルの岸壁に掘り込まれた穏やかな表情の磨崖仏に会いにいく

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2021/11/25

自然の巨石や岩壁に彫刻した「磨崖仏(まがいぶつ)」が点在する南山城地域。以前KYOTOSIDEでも、笠置町にある笠置寺の磨崖仏についてお伝えしましたが、今回訪れたのは京都府最大の茶産地・和束町。こちらの知られざる巨大磨崖仏をご紹介します。

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茶畑から程近い場所にある巨大磨崖仏

磨崖仏とは、自然の中にある巨石や岩壁に直接、仏や菩薩を彫刻した石仏の一種です。

今回の目的である巨大磨崖仏があるのは、和束町白栖(しらす)。JR加茂駅からバスに乗って「和束長井」というバス停へ。そこから橋を渡り、のどかな茶畑が広がる和束川沿いの道を5分ほど進んだ場所へと向かいます。

平成27(2015)年に整備された遊歩道を進んでいくと…。

こちらがその磨崖仏。下から見上げると実に壮観です。こちらの磨崖仏は「弥勒(みろく)磨崖仏」と呼ばれ、地域の人々からは「長井の弥勒さん」の名で親しまれています。

和束川北岸の巨大な花崗岩を彫り込んで造られた弥勒磨崖仏。高さ6m13cm、幅6m22cmの直立する岸壁に像高3m32cm、肩幅1m23cmの立像が深く彫り込まれています。

釈迦に代わり人々を助ける役目を担った弥勒菩薩

弥勒菩薩とは、釈迦の死後56億7,000万年後の世に降りてきて、釈迦に代わり人々を救う仏のこと。日本の国宝第一号に選ばれた広隆寺の弥勒菩薩像はシャープに鼻筋の通った表情が印象的ですよね。

一方、こちらの弥勒磨崖仏は顔も少し大きめで、頬がややふっくらとした穏やかな表情が特徴的。右手に施無畏※1、左手に与願印※2を刻み、その右方に正安2(1300)年4月の仏滅紀年銘が刻まれています。


ちなみに「仏滅紀年」とは、釈迦が入滅してから何年目に当たるのかを計算して出した年号のことで、この銘が彫られた石造物は全国的に数が少なく希少なのだとか。和束町にはこの仏滅紀年銘が彫られた鎌倉時代の石造物が3件(弥勒磨崖仏、撰原峠の子安地蔵、金胎寺宝篋印塔)あります。

弥勒磨崖仏は近くの海住山寺にゆかりの深い解脱上人の作といわれていますが、この一派の僧侶の本願によって造立されたものだろうと伝わっています。

この辺りは、山岳信仰の霊地として知られる鷲峰山金胎寺(じゅぶさんこんたいじ)の参道にあたり、そこに参拝する行者がこの弥勒磨崖仏の下で身を清めたといわれています。

遠くから眺める弥勒磨崖仏もまた壮観!

今度は川向かいから眺めてみましょう。和束長井のバス停に戻り車に気をつけながら弥勒磨崖仏の正面に位置する場所へと向かいます。

川を挟んで結構離れているのですが、それでも十分に大きさがわかりますね。昔の旅人もこの場所から磨崖仏に向かって手を合わせていたのでしょうか。

およそ720年以上に渡り、風雪に耐えながらも人々の救済に励んできた弥勒菩薩。周辺には駐車場がないため、電車・バスを利用してお越しください。

■■INFORMATION■■

弥勒磨崖仏(長井の弥勒さん)
住所:京都府相楽郡和束町白栖
アクセス:JR加茂駅から奈良交通バスで「和束長井」バス停下車、徒歩5分
問い合わせ:和束町観光案内所/0774-78-0300

【参考文献】

・『日本石造美術事典』 川勝政太郎著 東京堂出版 1978

・『古代・中世の歴史と景観 和束町史:第1巻』 和束町町史編さん委員会編 和束町 1995

・『和束地域の歴史と文化遺産 京都府立大学文化遺産叢書:第9集』 上田純一、向井祐介編 京都府立大学文学部歴史学科 2015

・『南山城石仏の里を歩く』 石田正道著 ナカニシヤ出版 2015

・『石造物の研究~仏教文物の諸相~』 藤澤典彦編 高志書院 2011

※1:施無畏(せむい)…衆生(いのちあるもの)の種々の畏怖(おそれおののくこと)の心を取り除いて安心させ救済すること

※2:与願印(よがんいん)…右手または左手の五指を伸ばし手のひらを外に向けて下に垂らす印。仏が衆生の願いを実現してくれることを象徴する

  • source:KYOTO SIDE
  • ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
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