立ち上がれリタイア世代。地方創生に地元シニアが果たす役割
「CCRC」という言葉をご存知でしょうか? CCRCとは”Continuing Care Retirement Community”の略で、継続介護付きリタイアメント・コミュニティという意味で、アメリカを中心に発達した「高齢者居住コミュニティ」のことです。
このアメリカのモデルを取り入れた「日本版CCRC構想」を日本政府が本格的に取り込み始めましたが、実現はそう容易ではないようです。シニアライフアドバイザーとして活躍する松本すみ子さんは、シニア世代が活躍できる場を創ることこそが重要だと話します。
関心高まるシニアの町「日本版CCRC構想」
人口減に悩む自治体が、俄然、関心を高めているのが、「日本版CCRC構想」。
CCRC とは、リタイア前後のまだ元気なうちに移り住んでもらい、介護が必要になってもサービスを受けながら、人生の最期まで安心して暮らすための高齢者向け住宅 や活動地域のこと。アメリカでは1950年代からサンシティ(アリゾナ州)などのモデル都市が生まれ、日本でもシニアライフを専門とする研究者の間では早くから有名で した。
アメリカでの取り組みを参考にしたのが「日本版CCRC構想」です。政府は地方創生プログラムの一環として、2016年度からのモデル事業実施に向けて、補助金や助成金、移住支援策などを検討しています。現在、全国の200以上の自治体がCCRC導入に前向きとのこと。
しかし、政府や自治体が考えるほど、実現は容易ではないというのが正直な感想です。
先日訪れた徳島県のある市も、日本版CCRC構想にいち早く手を挙げた自治体。CCRC立ち上げのキックオフセミナーが開催され、私は「生涯活躍社会の実現を目指して」というテーマで講演の機会を得ました。いくつかの講演、自治体と共同でCCRCを事業化している企業の事例発表と、プログラムが順調に進み、独自のCCRCプランの説明に及んだ時、市民と思しき男性が手を挙げて発言を求めました。
主な趣旨は、そうでなくても高齢化が進む市で、これ以上高齢者を受け入れてどんなメリットがあるのか、高齢者だけの町になってしまうのではないか、将来的に、医療費や福祉関係費に大きな負担が生じた場合はどうなるのか、というものでした。
確かに、元気なリタイア世代が移住してくれればいいのですが、老齢化によって、病気や介護状態になった人ばかりになるのではないかという懸念はうなずけるところです。
アクティブな60代、70代による町おこしを!
ただ、私はこの発言に、もうひとつ別の声も聞いたような気がしました。発言をした男性はおそらく60代半ば。まだまだ元気で活躍できる世代です。発言の裏に、他所のシニア世代に目を向ける前に、まず地元のリタイア世代を活用するような町おこしの政策はないのかという思いが垣間見えたのです。
65 歳以上を高齢者と定義づけている日本では、その年齢に達すると、お世話される側に組み入れられてしまいます。しかし、平均寿命も健康寿命も世界最高を誇っている日本では、60代、70代の人たちはまだまだアクティブです。本人たちはむしろ、意に反して外された感が強いのです。
あの発言の男性も、おそらくは「自分たちだって、町おこしにできることがある!」という思いがあり、それに目を向けずに、安易に外の力に頼ろうとする市の政策(助成金は魅力ですが)にいら立ちを感じたということではないでしょうか。
今、リタイアした60代、70代の中には、地域社会でボランティアだけでなく、コミュニティビジネスのような形で、地域社会を支える人たちがたくさん出てきています。最近は、現役時代から定年後を見据えて、地域社会とのつながりを作っておきたいと思う人も増えてきました。意欲があり、経験とスキルを持ったシニア世代を眠らせておくのはもったいない。
また、シニア世代が活躍できる場を創ることこそが、地方創生と高齢者福祉のあり方の両方に大きなカギとなるはずです。
これも「1億総活躍社会」の重要なポイント。とはいえ、初めて、超高齢社会を生きることになった日本のシニア世代は迷っています。
彼らに、地域を支えるシニア世代の活動の実例や活動のヒントを示すことも、ひとつの役割だと感じます。
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