「ありがとう」がもらえる仕事。リタイア世代が始めた介護タクシー

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2016/10/12

前回は、有償ボランティアがコミュニティビジネス(CB)になり、リタイア後のシニア世代が手掛ける例も増えたという話をしました。ただし、報酬を得られる社会貢献活動といっても、どんな活動があるのか、どのように見つけたらいいのかと、首を傾げる人も多いはず。

そこで、今回からはシニア世代がどのようにCBと出会い、どう活動しているかを具体例で紹介していきます。今回は地域で活躍する「介護タクシー」に生きがいを見出した人の紹介です。

生きがいも収入もほしい

重要なのは、シニアにとってのCBは自身の生きがい活動でもあるという視点。まずは関心のあることや好きなことで、できることはないかと考えるのが一番です。それを実行したのが、個人で「介護タクシー事業」を立ち上げた荒木正人さん(68歳)。

介護タクシーで開業した荒木正人さん

大手システム会社に勤務していた荒木さんは、定年後が近づくにつれて、その後の人生に不安を感じていました。自分は、仕事一筋で会社以外のことはあまり知らない典型的なサラリーマン。60歳まで勤め上げ、それから「さあ、何をしようか」では遅すぎる。お金も体力もある今から準備をしたい

そう考えた荒木さんは、中高年齢者の生活相談員の資格を取得できる講座に通い始めました。その中で、有償ボランティアで車椅子の人たちの移動を助ける仕事をしていた人の話を聴く機会がありました。

その時、荒木さんは「自分は無類の運転好きで、車の運転には自信がある。この仕事なら、趣味や特技を生かしながら、人の役にも立てる。そして、収入も得られる」と、閃いたと言います。

さっそく、申請書類の書き方や開業のイロハを教えてもらい、休みを利用して大型二種免許を取得するなどの行動を開始。ついには待ち切れずに58才で早期退職すると、ヘルパー2級資格福祉住環境コーディネーターの資格も取りました。

そして、1年ほどかけて自分で申請に取り組み、やっと3度目の申請が受理されると、車椅子ごと乗り込めるスロープ付きのワゴン車を購入。2008年、「サン・ゴールド介護タクシー」を開業したのです。

楽ではない介護タクシーの仕事

「介護タクシー」とはどういう活動なのでしょう。

介護タクシーは、一般のタクシーに比べて許可要件が緩和されているので、タクシー乗務員としての経験がない一般市民でも条件や書類を整えれば申請することができます


しかし、簡単な仕事ではありません。自宅での着替えや外出の支度などの手伝い、ドアツードアでの送り迎え、乗降時の介助、病院での付き添い、診察が終わるまでの待機など、すべてに関わります。だから、一人で1日4件の対応が限界ホスピタリティーがないと続かない活動なのです

お客さんが快適に乗れるような工夫もしている

料金は国交省が定めた運賃システムが適用され、そのほかに介助や外出付き添いなどのオプションサービス料も設定できます。荒木さんはさらに、病院と契約して患者さんの送り迎えも行っています。

「ありがとう」がもらえる仕事

さらに、この活動を必要な人に知ってもらうための営業努力が不可欠です。

荒木さんは最初、A4サイズのチラシを作り、自分が住んでいたエリアを中心にポスティングしたり、有料老人施設を回り、受付にチラシを置かせてもらうよう頼み込んだそうです。すると、次第に問合せがくるようになり、少しずつ軌道に乗っていきました。

事業を始めてから10年、順調だとは言えない状況ももちろんあります。仲間のドライバーが引き抜かれたり、契約先の病院とのトラブルがあったり。

では、そんな苦労をしてまで、なぜ、荒木さんはこの活動を続けるのでしょうか。

荒木さんは、最初のお客さんのことを今でもはっきり覚えていると言います。車椅子の女性で、テレビドラマを見た舞台となる東北へ行きたくなり、東京駅に向かうところだと話してくれました。そして、「帰ってくるときも、よろしくね」と予約してくれたのです。

こうしたお客さんとの気持ちのつながりが、なによりこの仕事をしていてうれしいことだと荒木さんは言います。だから、時には、料金設定がしてあるサービスを、ついついオマケしてしまうこともあるとか。

「お金をいただきながら、『ありがとう』と心からの感謝もいただける。こんなやりがいは会社では経験できなかったことでした」。

まさに、生きがいと社会貢献が結びついた活動といえそうです。

サン・ゴールド介護タクシー

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シニアライフアドバイザー。2000年から団塊・シニア世代のライフスタイルや動向を調査し、発信中。全国各地の自治体で「地域デビュー講座」の講師なども務める日々。当事者目線を重視しています。

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