世にも珍しい「空気」を信仰の対象にした、山形県朝日町「空気神社」
古老のアイデアが蘇った
この空気神社、決して、怪しい新興宗教ではありません。土地の古老・白川千代雄さん(故人)が提唱し、紆余曲折の末、1990(平成2)年10月に誕生した神社なのです。
神社誕生までをレポートした『空気ものがたり』(無明舎出版)によれば、白川さんはある会合で、「風、火、水の神様がいるのに、人間にもっとも大事な空気の神様がいないのはおかしい。わが町に空気に感謝する『空気神社』をつくろう」と言い出したそうです。一笑に付されても、あきらめることなく、いろいろな機会に熱心に伝えていました。
この突拍子もない発言と思われたものが20年後に実現したのですから、記憶に留めていた人たちがいたことは間違いありません。中でも、後に朝日町教育長を務めた阿部美喜男さんは、白川さんの「町の活性化は他と同じことをやっていてはだめだ。どこにもない空気の神様を空気のきれいな朝日町で作ろう」という発言に、このアイデアは悪くない、いつかは使えるかもしれないと思っていました。
当時の朝日町は過疎化が進み、集団離村を考える地区すらありました。だから、町を活性化する計画に携わるようになったとき、阿部さんは「空気神社」を思い出したのです。
しかし、神社=宗教行為というイメージが先行し、賛成してもらえません。阿部さんは自然崇拝であって、宗教行為ではないという考えで、なんとか実現できないかと説得に当たりました。すると、運輸省の事業の一環として、新しい観光地「自然観」を作る計画が登場。そのコンセプトを求めていたこともあり、観光協会も含めて、空気神社は町おこしとして優れたアイデアだと賛同する人たちが増えていきました。
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