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好きになってはいけなかったのに。衝動に突き動かされ、宮崎の海へ走った

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2020/09/19

およそ10時間、休憩もせずに車を走らせて行き着いたのは、あのとき嫌いになったはずの宮崎県だった。この場所へ来たところで、先輩への気持ちを過去のものにできるわけもない。ただ、なんとなく、どこかへ遠くへ行きたくてたまらなかった。

image by:Unsplash

宮崎インターを降りたころには、もうすでに太陽は沈みかけていて、空は紫とオレンジ色が混ざった複雑な色をしていた。見たこともない、南国のフルーツのような強い色。遠い異国にきたみたいだ。適当な海岸べりに車を停めて浜辺を歩く。靴で砂浜を踏むと、柔らかく崩れる。その感触が心地よい。

ザク、ザク、ザク。一歩一歩踏みしめるように歩く。靴先にまとわりつく砂を見ていると、不意に視界が歪んだ。靴先を払っても歪んだ視界はなかなか元には戻らない。

靴先が、砂浜が点々と濡れる。わかっていながら好きになってしまったこと、何も伝えられなかったこと、全部が悔しい。できることなら入社前からやり直したい。少しずつ、でも確実に近づいてくる海が、これが現実だと突きつけてくる。

砂を蹴り上げて遠くに消えゆく太陽を睨んだ。いっそ派手に、恥ずかしく暴れてやろうとネクタイをほどいて海に投げつけ、大きく息を吸って叫ぼうとした。

でも、言葉が出てこなかった。もう何を叫べば良いのかもわからない。恋した人に好きだと伝えることさえできなかった。僕がいいよどんでいるうちに、太陽はあっさりと海へ沈んだ。

きっと誰かはいうだろう。いつか綺麗な思い出になるよと。こんなどうしようもない気持ちを「美しい過去」なんて表現してしまうくらいなら、綺麗な思い出になんてならないでくれ。太陽が残した淡いオレンジ色の光にすがるように、僕はそう願った。

  • image by:Unsplash
  • ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
  • ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
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フリーランスのライター・インタビュアー

大学卒業後、勢いでフリーランスとして独立。ウェブメディアを中心に、インタビューやイベントレポート、小説・エッセイ連載など様々な媒体で執筆、脚本を行っています。小説をエンタメだけでなく情報を伝える手段にするべく、日々奮闘中。
その人や商品、企業の魅力を、私の文章でより多くの方々に伝えたい気持ちを胸に日々活動しています。

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好きになってはいけなかったのに。衝動に突き動かされ、宮崎の海へ走った
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