江戸時代に花開く。長きにわたり人間が戦ってきた「虫歯」の歴史

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2022/11/12

日本のオーラルケアは仏教伝来とともに始まる

『医心方第』22巻。image by:Hanabishi, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

これら世界史の流れのなかで、日本の虫歯と治療はどのように進んでいくのでしょうか。日本のオーラルケアの歴史は、仏教の伝来と意外にも関係しているのだとか。仏教経典には、身の回りを奇麗に保つ方法のひとつとして歯磨きの方法が書かれていたみたいです。

その仏教伝来の年は、見方によって異なるものの、538年といわれています。時がたち、日本における古代の法典『大宝律令』が701年に定められると、中国の唐の制度に習って「耳目口歯科」という診療科が初めて日本に誕生します。

もちろん、歯の治療を受けられる人は朝廷の人に限られていましたが、

  • 穿刺(せんし)を繰り返す
  • お灸をすえる
  • 抜歯する

などが主な治療法だったみたいです。

当初は、うがいが代表的な予防法でした。しかし、平安時代に書かれた丹波康頼『医心方』(984年)には、歯磨きに関する最古の記述も見られます。

鎌倉・室町初期には口歯咽喉科が歯科治療を担当し、抜歯を中心に治療したそう。歯の清掃道具としては「ようじ」が登場しました。

室町末期から安土桃山には口中科が確立され、仏像彫刻科による義歯も登場したそう。上述した南蛮貿易で砂糖が入ってくるころには、西洋医学も一緒に日本に入ってきました。全て朝廷内での話ですが、ちょっとずつ日本の特権階級の間で歯科治療が発達していきます。

江戸時代にオーラルケアが花開く

めがさめさう 弘化年間むすめの風俗。image by:Yoshitoshi, Public domain, via Wikimedia Commons

江戸時代に入ると、歯科治療とケアの波が庶民にまで広がります。江戸時代の人々の虫歯率は平均して12.1%だったそう。

土地によっても違い、壮年者と高齢者でも異なるのですが、虫歯と歯の治療に関する世界が、江戸時代は民間にも広まっていきました。


民間の歯科医師が登場し、歯磨きが江戸っ子の粋を表現すると考えられ、20cmくらいの「房楊枝(ふさようじ)」が多くの人の手に渡ります。歯磨き剤は塩、香料や香辛料を加えた陶土などで、雑貨屋や風呂屋、境内の露店で買い求めては、骨に摩耗が見られるくらい熱心に磨いた人もいたそうです。

義歯も発達し、その技術は世界トップクラスに到達しました。あの有名人、井原西鶴、本居宣長、滝沢馬琴、杉田玄白なども木製の義歯(入れ歯)をつけていたみたいですね。義歯の発達とともに、職人も増えました。

江戸時代の人たちの虫歯率は、地域によっても年齢によっても異なると先ほど書きましたが、なかでも虫歯がひどかった人たちは特権階級の人たちだったと知られています。

なぜなら柔らかく、糖質の多い食べ物を普段から口にしていたから。徳川将軍家、大名家には歯並びの悪い人が多く、14代将軍・徳川家茂は30本の虫歯を抱えていました。虫歯の症状がどの程度か分かりませんが、すさまじい本数ですよね。

大正に入ってから医師と歯科医師が独立

明治時代に入ると、アメリカやヨーロッパで競うように発展してきた近代的な歯科治療が輸入されます。木製ではなく陶製の義歯も誕生します。

明治時代の後半になって歯科医師の身分が確立すると、大正時代に入ってからは医師と歯科医師が独立し、昭和の戦前までに法整備も。

その後、大戦を挟んで、昭和・平成・令和と続くなかで、予防歯科の意識が高まり、冒頭に書いた子どもたちと親たちの努力が結果を残してきているのですね。

この先は、いよいよ虫歯治療も再生治療の領域に進むみたいです。健康な歯は健康な人生の鍵を握っています。歯が悪ければ、おちおち旅行も楽しめません。力強く世界中を飛び回るためにも、歯の健康には人一倍、関心を向けたいですね。

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翻訳家・ライター・編集者。成城大学文芸学部芸術学科卒。富山在住。主な訳書『クールジャパン一般常識』、新著(共著)『いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日』。北陸のWebメディア『HOKUROKU』創刊編集長。WebsiteTwitter 

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