江戸時代に花開く。長きにわたり人間が戦ってきた「虫歯」の歴史
「砂糖」が虫歯を急増させた?
その後、「文明病」ともいえる虫歯は、砂糖の浸透によって急速に広がります。でんぷんの摂取による虫歯は進行が緩やかなため、多くの場合、当時の高齢者が患う傾向が高かったそう。いわゆる古代型の虫歯ですね。
しかし、砂糖が登場し普及すると、虫歯の悪化が劇的に早まり、子どもでも患う時代がやってきました。
例えば、紀元前7世紀ごろ。イスラムの医薬書類に虫場治療の言及が増え、イスラム世界で歯学が発達した背景には、イスラム世界に砂糖の普及がいち早く見られたからではないかといわれています。
日本の場合、南蛮貿易が盛んになった室町末期から江戸初期にかけて、言い換えれば16世紀の終わりごろに砂糖が到来します。
しかし、そのころのヨーロッパでは、砂糖消費がかなり広く社会に浸透していて、虫歯の患者も劇的に増えていたようです。当時の女王・エリザベス1世(1558年即位)は晩年、砂糖の食べ過ぎで虫歯になり、歯が真っ黒だったとの情報もあるみたいです。
砂糖の消費は時代とともに進み、20世紀には消費量がさらに上がって、虫歯の患者も爆発的に増えます。2度の世界大戦で物資が不足し、砂糖の消費量が減った時期は、虫歯患者の数も減ったという記録があるほど、砂糖の消費量と虫歯は密接に関係してきました。
砂糖の浸透による虫歯の急増を受け、欧米の先進国では歯科大学や歯学部が次々と創設され、歯科医師が養成され始めます。
世界最初の近代的な歯科医学校であるボルチモア歯科医学校がアメリカに誕生した年は1840年。歯についた食べかすに虫歯菌が作用して酸をつくり、歯の表面を溶かす仕組みが唱えられた時期が1883年。
歯垢と虫歯の関係が発見された時期が1891年。1900年代に入ると、アメリカの歯学医学校設立の影響を受け、ヨーロッパにも歯科医学校が続々と誕生しました。
一方で、予防法も普及し、フッ化物を加えた水道水が誕生し、歯磨き産業も育って、現代へとつながっていきます。