ついにアメリカでも…「ビール離れ」が若者以外でも進んでいる理由は?

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2024/08/23

世の中のトレンドについて文章を書いていると、その移り変わりの激しさに戸惑うことが時々あります。

アメリカではクラフトビールの人気が高まっていますよ、という記事を書いたのはわずか2年前のことなのですが、現在ではそのブームは完全に去った感があります。

昨年ごろから、全米でビールの消費量が落ちているという報道をよく見聞きするようになりました。

全米ビール業界団体「Brewers Association」の報告によると、2023年度のビール出荷量が前年比5%減少したそうです。

image by:Trong Nguyen/Shutterstock.com

とくに中小規模のクラフトビールへの打撃は大きいようで、数多くのビール会社やバーが廃業や縮小に追い込まれています。

上の記事で紹介したサンフランシスコの老舗ビール会社『アンカー・スチーム』は昨年倒産し、127年の歴史に幕を閉じました。

ボストンの雄『サミュエル・アダムズ』も3四半期連続で収益が前年同月比で減少となり、株価は今年に入ってから約20%も下落しました。2021年4月のピーク時($1,294.93)と比較すると、2024年8月12日は$273.36と約5分の1になってしまっているのです。(ソース:Yahoo Finance)。

なぜアメリカ人がビールから離れつつあるのか。その原因については様々な議論があります。いくつかは日本と共通するものがあるかもしれませんし、あるいはアメリカ特有の事情もあるかもしれません。

原因1:ライバルの台頭

image by:Shutterstock.com

まずビール低迷の最大原因と思われるのが、ビールに代わる新たなアルコール飲料の存在です。とくにHard Seltzer(ハード・セルツァー)の人気がここ数年で急激に高まっています。コンビニやスーパーマーケットのお酒売り場などでは、すでにハード・セルツァーの占めるスペースがビールを上回っているのではないかと感じることすらあります。


ハード・セルツァーとは炭酸系のアルコール飲料で、ライムやレモンのような様々なフルーツ風味があります。早い話がチューハイのようなものです。細かい違いはあるのかもしれませんが、私には同じようなものに思えます。

ハード・セルツァーや他のカクテル系のアルコール飲料は伝統的なビールと比べて低カロリーを謳ったものが多く、ダイエットやヘルシー志向の強い人たちにもアピールします。その点も日本でチューハイが好まれている事情と似ているようです。

原因2:コロナバブルの終焉

image by:Tirachard Kumtanom/Shutterstock.com

そもそも、クラフトビールの人気はパンデミックに後押しされたバブルだったという見方もあります。

バーやレストランが閉鎖または制限つきで細々と営業していた時期、多くの人が「宅飲み」に走ったことは記憶に新しいでしょう。オンライン飲み会なんてものもありましたね。

その頃に人気を集めていたのが、少しだけ値段は張っても、「通」っぽいイメージがあったクラフトビールでした。

クラフトビールは伝統的な大手ビール会社のシェアを侵食しましたが、その勢いは持続しませんでした。しかし、パンデミックの影響が弱まり、クラフトビールのブームが去ったあとでも、大手ビール会社はその痛手から完全には立ち直っていないようです。

原因3:世代の変化

image by:ViDI Studio/Shutterstock.com

大量のビールを飲み続けてきたベビー・ブーマーたち(1946年から1964年に生まれた世代)の高齢化が進み、さすがに彼らの飲酒量が減ってきています。その子どもや孫の世代にあたる若い人たちはそもそもあまりお酒を飲みません。この辺りは日本の事情と似通っているようです。

極めて個人的な例を挙げます。1967年生まれの私は57歳になった今年1月から始めた禁酒を現在も継続中です。2002年生まれの息子は22歳になりましたが、生まれてから1度もアルコールを口にしたことがありません。

昨年までは我が家の冷蔵庫には常に半ダース以上の缶ビールが常備されていたのですが、今年からは完全にその姿を消したわけです。まさか、私の禁酒が全米のビール出荷量に大きな影響を与えているとは思いませんが、アメリカ社会を構成する1単位であることは間違いありません。


原因4:物価高の影響

image by:BearFotos/Shutterstock.com

マクロ経済的な要因もあるかもしれません。近年の原料、包装、輸送費の高騰により、ビール製造コストも増加していることは想像に難くありません。コスト増加は確実に値上げという形で消費者に転嫁されます。要するにビール1本の価格は以前より高くなっているのです。

もちろん、このことはビールに限った話ではありません。それでも、これまで安かったものが急に高くなれば、消費者にとっての魅力が低くなることは避けられません。ビールがどれだけ美味しくても、「不要不急」には違いないのですから。

値段が上がる→たくさん売れなくなる→さらに値段を上げざるを得ない→ますます売れなくなる。

ビール業界はそんな負のスパイラルに陥っているのかもしれません。

これらの要因はそれぞれ単独に存在するのではなく、互いに関連しているのでしょう。アメリカのビール業界にとっては厳しい状況が続くと思われます。もちろん、アメリカでビールが手に入らなくなる日がすぐに来ることはないでしょうが、未来のことはだれにも分かりません。

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角谷剛(かくたに・ごう) アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大谷翔平を語らないで語る2018年のメジャーリーグ Kindle版』、『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。

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