米国も大荒れ…ライドシェアはいかにして米国社会のインフラになりえたのか?

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2024/03/06

スマホのアプリで予約・配車サービスを受けられるライドシェアは、アメリカのお酒飲み事情を大きく変えました。アメリカではプロのドライバーが運転するタクシーをアプリで呼ぶだけではなく、一般のドライバーが運転するクルマをマッチングするサービスとしてもライドシェアが浸透しています。

ゲイバー『The Abbey Weho』image by:Robert Mullan/Shutterstock.com

大手会社のひとつ『Lyft』が最近発表したレポートによると、ロサンゼルス近辺で最も選ばれる行き先トップ30カ所のうち、約3分の1がウェスト・ハリウッド近辺のバーだったということです。ちなみに栄えある第1位は30年以上の歴史を誇るゲイバー『The Abbey Weho』でした。

ハリウッド付近は観光客だけではなく、地元の人にも人気のあるレストランやバーが多いのですが、交通渋滞がひどく、駐車スポットを探すのも困難なため、とくに夜間に訪れることは躊躇してしまいがちです。

ライドシェアならそうした移動に関するやっかいな問題をクリアできます。そしてもうひとつ、お酒を飲む人が飲酒運転をしなくても済みます。私もそのメリットを大いに享受しているひとりです。

意外に新しいライドシェアの歴史

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ライドシェアの草分け的存在である『Uber』が設立されたのは2009年。カリフォルニア州サンフランシスコでサービスを開始したのは2011年です。今からほんの十数年前のことに過ぎません。

もちろん、そのコンセプトがすぐに社会から受け入れられたわけではなく、既存のタクシー業界や行政などさまざまな方面からの抵抗がありました。

世間には新しいモノ好きの人とそうでない人がいますが、アメリカはどちらかといえば前者の割合が日本より多いような気がします。

それでも一般人の多くがライドシェアを日常的に利用するようになったのは2010年代の後半になってからではないでしょうか。現在ではライドシェアはアメリカ社会におけるインフラの一部と呼んでよいと思います。

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よく知られているように、アメリカは車社会です。ニューヨークやサンフランシスコの都心部などを例外として、ほとんどの地域では自動車を運転せずに日常生活を送ることは困難です。


当然の帰結なのですが、飲酒運転は大きな社会問題でした。バーに大きな駐車場があるということ自体、どう考えても矛盾しているわけですが、その形態は昔も今も変わりません。

死語になりつつある「指名運転手」制

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窮余の解決策として「指名運転手(Designated Driver)」というアイデアが推奨されるようになりました。野球の指名打者が打撃に専念するように、一緒に飲食するグループのなかで運転手をあらかじめ決めてしまおうというわけです。

運転手に指名された人はその日はお酒を我慢することになります。つまり、友人や家族のために犠牲になるのです。私も何回か友人同士で飲みに行く前にジャンケンで負けて指名運転手にさせられた痛恨の思い出があります。

この指名運転手という言葉がアメリカ社会で市民権を得たのもさほど古い話ではありません。1988年に、かの名門ハーバード大学がハリウッドのスタジオや大手テレビネットワークと協力して行った社会キャンペーン「Harvard Alcohol Project」がきっかけとなりました。

キャンペーンは目覚ましい効果を挙げました。同大のレポートによると、検査を受けて血中アルコール濃度が0.0%より上だと判明した、つまり何らかのお酒を飲んだ運転手の割合は、1986年の25.9%から1996年の16.9%にまで減少したとのことです。同じ調査では、指名運転者の割合は1986年の5%から1996 年には 24.7%に増えました。

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そして今、この指名運転手さえも過去のものになろうとしています。お酒を飲みに行く日はライドシェアでの送迎を頼む人が増えてきたからです。誰もがお酒を我慢することなく、そして安全にバーと自宅を往復することができます。

もちろん以前もタクシーで同じことをやろうと思えばできたのですが、お酒を飲むことを目的に電話でタクシーを呼ぶというのは、費用をとっても、待ち時間をとっても、アメリカの大部分の地域で現実的ではありませんでした。

image by:Ned Snowman/Shutterstock.com

こうしてライドシェアはアメリカのバー文化を変えつつあります。日本では全面導入に関してさまざまな議論があることは承知していますが、きっと良き側面もあるだろうと私は思います。

沖縄県那覇市は現在の日本でUberのライドシェアが利用できる数少ない都市のひとつですが、「お酒を飲んだらUber Taxi」と書いた巨大なポスターが那覇空港に垂れ下がっていました(2022年12月訪問時)。

お酒飲みではなくてもライドシェアが便利なわけ

image by:Tada Images/Shutterstock.com

もちろん、ライドシェアのメリットはお酒飲みに限るわけではありません。自動車を保有せずに生活をしようとする若者も、安全のために運転を止めようとする高齢者世代も、それぞれの目的に応じてライドシェアを利用しています。

アメリカを訪れる外国人観光客にとってもライドシェアはとても便利な移動手段です。日本の優秀な公共交通機関を利用し慣れた人には想像しづらいかもしれませんが、アメリカではバスや電車で移動するということは必ずしも便利でも安全でもありません。そうかといっても、レンタカーを借りて自分で運転することに不安を感じる人も多いと思います。

ライドシェアなら、英語が苦手でも、地理に不案内であっても、好きなときに好きな場所へ行くことができます。車に乗り込む前に運賃が明記されますので、一昔前のタクシーのようにぼられることを心配する必要もありません。

image by:Vitaly Loz/Shutterstock.com

大谷翔平選手と山本由伸選手の加入で盛り上がるロサンゼルス・ドジャースの試合だって、ライドシェアを使えば、ドジャー・スタジアムまでストレスフルな運転をしなくて済みます。くどいようですが、スタンドで生ビールも飲めます。

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私はけっしてUber やLyftの回し者というわけではありませんが、ロサンゼルスに限らず、アメリカ旅行にはライドシェアを利用することを強くおすすめします。

あらかじめスマホにアプリをダウンロードして、クレジットカードを登録しておく。旅の準備はそれだけで万全です。

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角谷剛(かくたに・ごう) アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大谷翔平を語らないで語る2018年のメジャーリーグ Kindle版』、『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。

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