江戸情緒あふれる、いまもなお美しい日本海の「北前船」寄港地5選
能登半島の輪島(石川県)
司馬遼太郎著『菜の花の沖』(文芸春秋)は、淡路に生まれた高田屋嘉兵衛が後に北前船の船頭になり、最後は函館を巨大なまちに発展させるまでの人生を描いた歴史小説です。
そのなかでは先ほど紹介したような若狭湾の港に寄らず、山陰から能登半島にぶつかるまで、日本海を突っ切って行く航海についても書かれていました。
まさに日本海の沿岸を離れて一気に東に目指し突っ切って行くと、その先でぶつかるのは、巨大な能登半島。日本海側最大の半島にも当然、北前船の寄港地や船主集落が発達しました。
同エリアで個人的に歩いていて楽しいと最も感じたのは、琴ケ浜に面した輪島市の黒島地区。能登の沿岸に延びる国道249号線を走っていると、海岸線に黒い瓦屋根と板張りが特徴的な民家の連なりが見えてきます。
まさにこの一帯が重要伝統物建造物群(重伝建)にも指定される船主集落のまち並みで、美しい弧を描く琴ケ浜の景観と相まって、独特の美しさを楽しませてくれます。最初に見たときは、「ああ、住んでみたい」と思ったくらい。
黒島地区から車で10分ほどの場所にある琴ヶ浜には、その昔この地に住む娘と若き船乗りが恋に落ち、そして悲しい別れをしたという言い伝えがあります。
その話とあわせ、琴ヶ浜の砂が踏むと女性の泣き声のような「キュッキュ」という音がすることから「泣き砂の浜」ともいわれているのです。
黒島地区の目の前に広がる砂浜も同じく泣き砂のようで、筆者も何度か家族や犬と一緒に訪れた経験があります。
残念ながらいまのところ「泣いてくれた」経験はありませんが、泣こうが泣くまいが、そんな話はどうでもいいくらい、船主集落と併せて素敵な景観が広がっています。
住所は輪島市でありながら、黒島地区は輪島の中心部からは少し離れています。輪島塗のお店や朝市などを目当てに能登半島の北部に訪れる際には、ぜひとも足を伸ばして黒島地区にも立ち寄ってみてくださいね。