歴史を見守ってきた建造物。世界の「老舗ホテル」ってどんなホテルがあるの?

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2025/02/19

世界で最も古い「hotel」は実は、日本にあるとご存じの方も少なくないはず。ギネス世界記録で「Oldest hotel」と紹介される宿は、山梨県にある温泉宿の「西山温泉 慶雲館」になります。創業の歴史は705年。

平城京が奈良に遷都される710年(なんと大きな平城京)よりも前の話ですね。

しかも、同じ700年代初頭にできた2位、3位の「Oldest hotel」も日本勢です。兵庫の城崎温泉にある「千年の湯古まん」が717年、石川県にある「粟津温泉 法師」が718年になります。

ギネス世界記録に慶雲館が登録されるまで、世界最古の宿として法師が認定されていました。その後の順位も、日本の老舗旅館が目白押しですがこれらの宿は、いってしまえば温泉旅館がメインです。

旅館とホテルは、日本の法律上も厳密な違いがないそうですが、「ホテル」といわれれば、洋式の建造物でできた宿泊施設をなんとなく想像しないでしょうか。そこで今回は、日本の旅館を除く、1,000年近い歴史を誇る世界のホテルを紹介します。

メイズ・ヘッド・ホテルとオールド・ベル/イギリス

「メイズ・ヘッド・ホテル」image by:ナイジェル・チャドウィック, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

最初は、イギリスにある歴史あるホテルから。イギリスにおいて、どこのホテルが一番古いかは、解釈によって順位が変わるようです。

あくまでも、最も歴史が古いと「主張」するホテルの代表例としては、イングランド東部ノーフォーク州にある商業都市ノリッジの中心部で現在も経営を続ける独立系の「メイズ・ヘッド・ホテル」になります。

直接的な創業の歴史は1287年に起源を持ちますが、同ホテルの主張によれば、現在のホテルが建つ敷地に、ノリッチ最初の司教で、ノリッチ大聖堂を建立したハーバート・デ・ロシンガが邸宅を構えた歴史があるとの話。1094年ごろ(1096年とも)の出来事です。

その時点から、ある意味で「ホスピタリティの精神をもって使われていた土地」であるため、土地の歴史をホテルが受け継いでいると考えれば、1094年前後から歴史が続いていると主張できるみたいです。


ちょっとツッコミどころはあるかもしれませんが、その話を抜いても、数百年の歴史を誇る同ホテルです。長い歴史のなかでは、エリザベス1世をおもてなしした過去もあるみたいですね。

同ホテルによると、どこの傘下にも入らず、独立系のホテルとして長い歴史を保てている背景には、一貫して働く人への投資があるからなのだとか。

異なる装飾が施された84の客室とバー、レストランを持つ建物は、時代と共に建て増しを繰り返してきたため、少なくとも6つ以上の時代の異なる建物の集合体で成り立っているとされます。

「オールド・ベル」image by:ミランダ・ホジソン/オールド・ベル・ホテル、ハーレー

ただ、本当の創業が1287年となると、「オールド・ベル」という1135年創業のホテルもイギリスにはあるため、イギリス最古の順位が変わってきます。

位置的にはロンドンの西にあり、テムズ川に近い、オックスフォードとの中継地点にあるカントリースタイルのホテルです。

もちろん、こちらもイギリスで最も古いホテルを主張していて、世界的に見ても歴史の長いホテルとして認知されています。

ホテル内に現存する秘密の通路を、イギリス国王ジェームス2世を打倒した名誉革命の重要人物が使用したり、第2次世界大戦期には、チャーチル首相とアイゼンハワー大統領が訪れたりした歴史もあるみたいです。歴史の舞台という言葉が似合うホテルです。

ツム・ローテン・ベーレンとピルグリムハウス/ドイツ

「ツム・ローテン・ベーレン」image by:joergens.mi, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

次は、ドイツ南西部のフライブルクにあるホテルです。ドイツ最古とされる「ツム・ローテン・ベーレン」の創業年は1120年代。歴代の宿屋の主人については、少なくとも1311年まで、50人近くはさかのぼれるみたいですね。

ホテル名をドイツ語で表記するとZum Roten Bären。英語で書くと、Zum=to the、Roten=redden、Bären=bearで「To The Redden Bear(赤くなったクマへ)」といった感じでしょうか。

なぜ、ホテル名に「クマ」が入っているのでしょう。ホテルの長寿の秘訣と共に、名前の由来をホテルに問い合わせたのですが、残念ながら締め切りの期限までに回答が得られませんでした。

フライブルクは、ドイツとフランス、スイスの国境近く、シュバルツバルト(黒森)の南の玄関口にあります。その森が関係しているのでしょうか。

欧米のメディア情報を参照すると、ツム・ローテン・ベーレンがホテルとして誕生したころは、商業ホテルという存在自体が世界に登場して間もない時代だったみたいです。要は、商業ホテルの草分け的な存在だったわけです。

創業者の名前こそ分かっていないものの当時の君主であるツェーリンゲン家と遠くない人だったのではないかと一説に考えられるのだとか。

フライブルクの街をつくった一家の家伝にはクマの猟師の物語があり、重要なアイデンティティの一部としてクマが扱われているそう。例えば、同じドイツのベルンも、ツェーリンゲン家がつくったまちで、ベルンのシンボルもクマです。

さらに「赤」は、草分け的な宿の存在を目立たせる狙いもあったと考えられるそう。十字軍の遠征の際、白いテントが林立する中で、食料テントだけを赤く目立たせた敵軍の工夫を取り入れたとの説もあるそうです。

なんであれ、十字軍とか、フライブルクをつくった貴族とか、歴史の教科書が絡むような時代から営まれてきた宿である点は間違いないみたいですね。

「ピルグリムハウス」image by:K.bierkaemper, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

ちなみに、ドイツには他にも歴史あるホテルが存在します。同国の東部、ドルトムントの近くのゾーストにある、ホテル&レストランの「ピルグリムハウス」(巡礼の家)です。

1304年に定款が認証され、ハイカーや巡礼者を歓待する場所として設立されました。古いホテル好きの旅人は要チェックですね。

このように世界にはさまざまな歴史あるホテルが健在しています。かなり長い歴史を見守りながら、その街に佇む歴史あるホテルたち。海外はもちろんのこと、日本にも魅力あふれる古き良き宿泊施設が残されていますので、ぜひ旅先の参考にしてみてはいかがでしょうか。

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翻訳家・ライター・編集者。成城大学文芸学部芸術学科卒。富山在住。主な訳書『クールジャパン一般常識』、新著(共著)『いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日』。北陸のWebメディア『HOKUROKU』創刊編集長。WebsiteTwitter 

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