絶景、そして温泉。湖畔の宿「界 ポロト」が願いを叶えた至福のひととき
湖畔に浮かぶ5棟のとんがり屋根。日本でも海外でもない、どこかおとぎの国のような空気をまとった風景の一枚の写真が「界 ポロト」との出会いでした。
世界でも珍しいモール泉の温泉を有することを知り、これは絶対に行かねば!と思いながら早2年。この冬ようやく願い叶って行ってきたところです。
「界 ポロト」があるのは北海道白老町のポロト湖畔。ポロト湖って?白老町ってどこ?とよく言われますが、白老町は新千歳空港から南下した苫小牧と登別の間に位置する太平洋沿いの町で、2020年にオープンした「ウポポイ(民族共生象徴空間)」がある場所と言えば、なるほどと頷く人も。
この白老地区におけるアイヌ民族の歴史は古く、その昔、湖畔周辺にはアイヌの人々が暮らすコタン(集落)があり、白老の町の基盤はアイヌの人々によって作られたものと言われています。
ちなみに、白老という町名は、アイヌ語で「虻の多いところ」という意味の「シラウオイ」に由来しているのだそう。そして、「ポロト」は「大きな沼」という意味。その名前からも四季の自然がとても豊かな地であることがわかりますよね。
大自然に抱かれて、地球と繋がる滞在
そんなアイヌ文化伝承の地に建つ「界 ポロト」は、限りなく自然と溶け込む空間と、アイヌ文化に触れる滞在が魅力の宿。
客室は全室ポロト湖を眺めるレイクビュー。館内のどこにいてもポロト湖を眺め、身を置くだけでスッと肩の力が抜けるような感覚を持ちます。
この心地よさは、全体的に風が通り抜けるような余白がそこに添えられているからだと、実際訪ねてみて確信しました。
到着すると、迎えてくれるのはあのとんがり屋根!湖畔に浮かぶ姿は写真で見たのと同じよう、いえいえ、それ以上にフォトジェニック。目の前に広がるポロト湖の景色と、独特の世界観に心奪われます。
ごく控えめに配置されたロビーや、客室棟へと続くライブラリースペースにおいても主役はポロト湖。どこにいても角度や視点を変えて湖を眺めるよう計算されているのが素晴らしく、その中でも一番の特等席は、湖畔と同じ視線の高さに配された暖炉スペースではないかと。
窓のすぐ外には湖畔が広がり、暖炉の炎の向こうに湖の水の世界が続きます。火と水を組み合わる、この粋な計らいがたまりません。
暖炉やライブラリーのソファに腰を下ろすと、刻々と表情を変える光の具合を感じることができ、心穏やかな開放感に満たされます。湖畔には餌を求めてやってくる鳥たちの姿もあり、なんだかとんがり屋根の桃源郷に迷い混んだ気分。
パブリックスペースの心地よさに早くも気分上々ですが、本領は客室にあり。案内された客室からのビューは、パノラマティックかつダイナミック!ポロト湖を一望する、空と湖とつながる空間でした。
テラスに出ると、澄み切った空気が鼻腔をくすぐり、サラウンドで聞こえてくるのは風の音や鳥たちの鳴き声。手を伸ばせばすぐそこに届きそうな空と、湖の向こうに続く森と大地。こんな雄大な自然を満喫できる空間が用意されているとは!
しかもこの環境が空港からたったの40分の距離というのが信じ難く、都会から瞬間ワープでたどり着いたような不思議な気分。
これまで湖畔の宿にも泊まったことはありますが、ここまで湖の世界観をダイナミックに伝えてくれるロケーションは記憶になく、湖畔の宿の魅力にすっかり開眼しました。
客室は露天風呂付きの特別室と露天風呂が付かないタイプに分かれますが、この贅沢なロケーションを存分に満喫するためにも、絶対的に露天風呂付きの特別室をセレクトすべし。
こんなにも開放感あふれる自然を感じる客室露天はそうないので、湖、森、山、空を眺め、地球との一体感を味わう湯浴みをぜひとも体験してほしいと思います。
しかも湯は、地中から太古の植物が溶け込んだモール泉。この空間のすべてが大自然と溶け込むためにある、という感じ。自然のエネルギーが十分に身体中に行き渡ったら、そのままテラスで湯冷まし。なんと贅沢なととのい時間でしょう!
館内や客室の随所にはアイヌ紋様や装飾が散りばめられ、滞在をより奥行きの深いものへと導いてくれているよう。そこはかとなく漂うアイヌ文化のエッセンスがここではストンと腑に落ちるのは、アイヌの人々が眺める同じ自然に包まれているからかもしれません。
心と身体をリラックスに解放していくうちに、五感で自然を感じるインスピレーション力もいつもより研ぎ澄まされるような気分になります。
世界的にも珍しい“モール泉”の効力に浸る
さて、客室露天も絶景ですが、「界 ポロト」のモール泉の楽しみは大浴場に!ちなみに、モールとはドイツ語で「腐植質」。亜炭などを含む泥炭のことで、地中の亜炭層を通って湧出する温泉をモール泉と呼んでいます。
長い歳月をかけ太古の植物が地層から湯に溶けだした植物由来の有機物成分が含まれた温泉。ようは、火山活動由来の温泉とは基本的に成り立ちが違う温泉で、北海道ではこのモール泉自体を「北海道遺産」に選定しています。
湖畔に建つとんがり屋根の正体は、「△湯(さんかくのゆ)」と呼ばれる湯処。絶景露天は、まるで湖に浮かんでいるような感覚での湯浴み体験が叶う魅惑の湯です。
立ち上る湯気の向こうに揺れる湖面を眺めながら、水音や風に耳を澄ませているとどんどん自然と一体化していくような気分に。
ナトリウム成分を多く含む弱アルカリ性の湯は、ゆったりと浸かっていると身体の芯がほどけるように力が抜けていくのがわかります。
この化粧水のようなモール泉に浸かりながら、湖畔にとまる鳥たちと同じ目線で水を眺める贅沢はぜひとも体験してほしく。時間が経つのも忘れて温泉に浸かる幸せがここにあります。
大浴場としてもう一カ所レトロな雰囲気の内湯「○湯(まるのゆ)」があり、内湯でゆっくり温まりたいときにはこちらへどうぞ。
天井に浮かぶまん丸の穴から差し込む光が茶色いモール泉を照らし、なんだか洞窟の中にいるような気分で落ち着きます
メタケイ成分が多く含まれるため、湯上がりには肌がしっとり、ふっくらと整うのも嬉しく、浸かれば浸かるほどその温泉効果を実感するはず。何度もリピートしたくなるので、ぜひとも時間帯を変えて湯小屋を訪れてみて。