ムーミン谷を走る「いすみ鉄道」が、いま中高齢旅行客にウケるわけ
地域活性化の核としてのいすみ鉄道
慢性赤字に悩むローカル線はたくさん廃止されてきましたし、今も廃止寸前とされる路線が多くあります。例に違わずいすみ鉄道も何度も廃止が検討されてきました。
最近では1988年に、いすみ鉄道の前身である旧国鉄木原線が、国鉄民営化に伴い廃止されることになりましたが、千葉県、いすみ市、大多喜町、小湊鉄道が共同出資する第三セクター「いすみ鉄道株式会社」が引き継ぎ、廃止を逃れました。
その後も赤字は続き、2007年10月には「今後2年間で収支改善が見込めなければ廃止」との決定がされました。このときは増便や新駅・城見ヶ丘の設置などで乗客増を図り、駅名の命名権を売却するなどの営業努力を行いました。
さらに鉄道運営の発想を根本的に切り替えるため、2009年に行ったのが、外部からの社長公募でした。新社長に就任したのは、外国航空会社勤務の経歴をもつ鉄道マニアの鳥塚亮氏。子どもの頃からいすみ鉄道(旧木原線)が好きだったという鳥塚社長は、いすみ鉄道の運営方針や存続に向けた考え方を根底から変えました。
単に赤字だから廃止というなら、ローカル線に生き残る道はほとんどありません。経営にあたり、もちろん赤字解消には最大の努力は傾けます。しかし同時にいすみ鉄道を地域活性化の核と位置付け、地域全体の協力でいすみ鉄道を活性化することが地域の知名度を全国区的に高め、物販も含めた観光収入などにつながるような仕組づくりに着手したのです。
その結果リピーターやファンが増えれば、ここにいつか住んでみたいという移住・定住希望者も増えるかもしれません。それは地域最大の課題である人口減少化や過疎化への対策にもなるという複合的で明快な考え方です。
鳥塚社長のこうした方針は沿線の行政だけでなく、地域の人々の大きな賛同を得ることになりました。
その後のいすみ鉄道が打ち出した活性化事業は多彩です。具体的には運転士公募、ムーミン国内版権所有企業とのタイアップやグッズ開発、ムーミン列車の運行、ファンクラブ発足、枕木オーナー制度(5000円を支払って申し込むと、名前やコメントを枕木に書ける)や、車両オーナー制度(年会費5万円で車内にネームプレートが貼りだされる)など。
とくに運転士公募は子どもの頃から電車の運転士に憧れてきた社会人を対象にしたもので、約1年半の運転士養成期間中に必要な費用700万円を応募者本人が負担するシステムが話題を呼びました。この事業は2010年から6回実施され、女性も含めて10名以上の運転士がデビュー、そのつど大きな話題を呼んでいます(※2016年の第7期生募集で一旦終了予定)。
いすみ鉄道のこうした活発で積極的な企業努力を支えるのは、地域やファンとの強い絆に基づく数々の連携事業です。