渋谷・道玄坂の由来は山賊だった? ハチが愛した渋谷の地名散歩

松濤公園はハチと博士のお散歩コース?

ハチと上野博士が散歩した鴨しれない鍋島松濤公園
ハチと上野博士が散歩したかもしれない鍋島松濤公園

松濤は現在、東京のセレブ地区の代表のようにいわれますが、ハチが松濤1丁目(当時は大向)の上野博士邸に引き取られた頃は人家の非常に少ない、とても閑静な(というか、閑静すぎる)場所だったようです。

鍋島松濤公園の現在ある場所は、江戸時代には紀州徳川家の下屋敷で、明治7年に旧佐賀藩主の鍋島侯爵家に払い下げられ、鍋島侯爵邸が建てられました。松濤というのは茶の湯の釜のなかで湯がたぎる音が、松籟(松の枝が風に騒ぐ音)や潮騒の音に似た様子を表した言葉で、佐賀藩鍋島家当主の雅号でした。

松濤という地名が正式に誕生するのは昭和3(1928)年です。それ以前から鍋島家は、この場所に「松濤茶園」という名の狭山茶の茶園(茶畑)を開いていました。さらにハチが上野邸に引き取られた年(大正13=1924)年には、松濤茶園の一部が児童公園として一般公開されるようになります。

そのような閑静な環境に恵まれた土地に建つ上野博士の自宅から、ハチは上野博士とともに毎朝、雑踏の渋谷駅へと出掛けるようになるわけですが、上野博士は大正14(昭和元年=1925)年5月、53歳の若さで急逝しています。 ハチにとっての至福の時期はかなり短かった(1年半程度?)ことが、この事実からわかります。

しかし、上野博士とともに過ごした短期間の至福体験が強烈だったことは、ハチがその後、上野博士を求めて10年以上も、単独で渋谷駅の周辺に出没したことからも想像されます。(※ハチが渋谷駅に通い続けた理由については、さまざまな憶測がされています。その本当の理由を知っているのはハチだけですが、筆者は多くの『ハチ公物語』が採用する《大好きな上野博士の面影を求めて説》をあえて採りたいと思います)

またもうひとつ、想像をたくましくさせていただければ……、こんなエピソードも「ありえたのでは?」と考えています。それはハチが上野博士邸に引き取られた大正13(1924)年に、現在もある鍋島松濤公園(旧渋谷区大山町、現松濤2丁目)が児童公園として一般向けに公開され始めたという事実に基づく想像です。

鍋島松濤公園は上野博士の自宅から歩いても10数分の至近距離。愛犬家の上野博士のことですから、休日などにはハチと一緒に、松濤公園の池の周囲をのんびり散歩したこともあったのではないでしょうか

鍋島松濤公園には現在も、愛犬をつれた人が静かに散策する姿をよく目にします。引き綱を犬につける習慣がなかった当時のことですから、ハチは上野博士の先になったり後になったり、盛んにジャレながら、時に上野博士に呼ばれると嬉しそうに尻尾をふりふり、駆け付けたに違いない。そんなふうに思ってしまうのです。

ハチが晩年を過ごした富ヶ谷を歩く

ハチが晩年を過ごした富ヶ谷は都会と下町が混在した雰囲気
ハチが晩年を過ごした富ヶ谷は都会と下町が混在した雰囲気

上野博士が亡くなってから後、上野博士の自宅は借家だったため、ハチは上野博士夫人の親戚や知人のもと(旧日本橋区大伝馬町、旧浅草区三筋町、世田谷区弦巻など)に預けられた末、上野博士邸からも程近い富ヶ谷の植木屋さんに引き取られます(昭和2年)。ハチの渋谷駅通いが有名になるのは、この富ヶ谷の植木屋さんに引き取られて以降のことでした。


宇田川遊歩道の入口
宇田川遊歩道の入口

富ヶ谷は松濤から歩いて20分ほどの場所に位置しており、松濤1丁目(旧大向)を流れていた宇田川がやはり流れていました(現在は暗渠化され、宇田川遊歩道)。富ヶ谷はこの渋谷川の支流である宇田川と河骨川(小学唱歌『春の小川』のモデル)がつくる谷地に集落が形成されたことから生まれた地名とされます。

また松濤と富ヶ谷の間には神山町があり、ハチが富ヶ谷の植木屋さんから渋谷駅方面に向かう際には神山町を通過したものと推測されます。神山町の町名の由来は資料を見ても明確ではありませんが、昭和3(1928)年に旧神山・大向・大山・深町の各一部の町域が合併して神山町になったことから、純粋に旧神山地区を新たな町名にしたものかと思われます。

渋谷駅前から大向、神山町、富ヶ谷を貫流する宇田川はハチにもなじみだった
渋谷駅前から大向、神山町、富ヶ谷を貫流する宇田川はハチにもなじみだった

あるいは、明治神宮の内苑に代々木神園町という地名が同じ昭和3年に付与されたこと、同様に昭和3年に明治神宮の南という意味の神南の地名が生まれていること、現在の神山町の一部が昭和40年代までは神南地区に含まれていたことなどの関係から類推すれば、明治神宮(神域)に近いということも少しは影響しているのかもしれません。               

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