誰もが旅を楽しむ時代をいち早く見据えていた「近代ホテルの父」の生涯

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2018/05/12

合理性を追求した大型ホテル「ホテル・ペンシルバニア」

「これからは庶民が旅をする時代。清潔で快適で値ごろ感のある大型ホテルが必要とされる」と説いたのは、エルスワース・ミルトン・スタトラーでした。

彼が最初に後世に残すためのホテルを建てたのは1907年のこと。ニューヨーク州バッファローにオープンしたスタトラー・ホテルには、300室全ての部屋にバスルームが付き、便箋とペンが置かれました。そして“1ドル50セントで泊まれるバスルームつきの部屋!”というPRが掲げられました。その触れ込みに「そんな値段でビジネスになるわけがない」という多くの意見があがります。しかし、彼の戦略はみごとに成功し、スタトラー・ホテルは急速に数を増やして行くことになったのです。

1910年代前半、ニューヨークのペンシルバニア・ステーション前に大きなホテルを建てる計画が浮上します。オーナーはペンシルバニア・レイルウエイ・カンパニー。建築は初代ペンシルバニア・ステーションを手掛けたウイリアム・リチャードソン。そしてスタトラーが建設の段階から参入することになりました。彼の理論である“合理的構造に基づく最高の収益を生み出すホテル”のもとに建設されたのがホテル・ペンシルバニア。2200室を保有する世界最大のホテルとして、1919年1月25日にオープンしました。



このホテルを有名にしたのは、カフェ・ルージュというラウンジ。イタリアのテラコッタとライムストーンで飾られた美しいこの部屋で、毎晩、デユーク・エリントン、ウッディ―・ハーマン、アンドリュー・シスターズらがショーを繰り広げました。1940年から2年間グレンミラー・オーケストラ楽団が出演したとき、人気は最高潮に達します。

オープン時からホテルを運営してきたスタトラー・ホテル・カンパニーは、1948年にこのホテルを買収し、ホテル名をスタトラー・ホテルに変えます。しかし、1954年コンラッド・ヒルトンがスタトラー・ホテルを会社ごと買収した後に、スタトラー・ヒルトンに改名しました。さらに1979年、ゼッケン・ドーフがヒルトンから買収し、ニューヨーク・スタトラーとしました。その後、オーナーが代わる度に、解体される計画があがりましたが、解体には至らず、最近では2013年4月に“ホテルは解体せず、投資を行い利益率の高いホテルにする”という発表がなされました。

発祥の地とも言えるホテル・ペンシルバニア。近くを通った際には、ホテルファンならずとも足を踏みいれ、スタトラーの痕跡を探してみたくなるのではないでしょうか?

image by:ケニー・奥谷

※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。

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奥谷啓介、NY在住。慶応義塾大学卒業後、ウエスティンホテルズ入社。シンガポールのウエスティン、サイパンのハイアット、そして世界屈指の名門ホテル・NYのプラザホテルに勤務。2001年米国永住権を取得、現在はNYを拠点に執筆&講演&コンサルタント活動中。日米企業にクライアントを持ち、サービス・売り上げ・利益向上の指導からPR&マーケティングまでのマルチワークをこなす。

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