もう“爆買い”しない!?コロナ禍前と後で変わった中国人の日本旅行事情
混雑に疲れた中国人の日本旅行最新トレンドは?

「小紅書(RED)」もXなどと同じようにハッシュタグを採用していて、ハッシュタグで検索をしたり、投稿数ランキングを見たりすることができます。このようなハッシュタグの中で、日本旅行に関係があるハッシュタグを選び出して整理をすると、今、中国人がどのような日本旅行をしようとしているのかが見えてきます。
ただし、「小紅書(RED)」はいまだに若い世代の女性が利用者の中心であり、そこに偏った見方になることは考慮しておかなければなりません。特に、中高年の男性は「小紅書(RED)」とはまったく異なる旅行の楽しみ方をしている可能性はあると思います。
いずれにしても、参考にはなるため、項目に分けてご紹介したいと思います。
1. 慢充旅行

「慢充旅行」は、国内旅行のトレンドです。ゆっくりと充実した旅行という意味で、あちこち移動せず、ひとつの場所にとどまって、その場所をゆったりと楽しむという意味です。
「写真を撮らない、SNSに挙げない」というハッシュタグも拡散されています。SNSに挙げるために、映える場所を忙しく回って、写真を撮ったらすぐに移動するというスタイルの旅行はさすがに飽きられ始めているようです。
#強度の強くない旅行計画/#目的と義務感を減らす
この背景にあるのが、旅行の目的が、見聞を広めることや観光をすることではなくなり、ストレスの解消になっているということがあります。ですので、どうすれば自分の心が癒やされるのかをみな考えるようになっています。
そのため、1カ所に滞在する旅行が主流になろうとしています。例えば、東京にしか滞在せず、無理のない範囲で街歩きを楽しみ、疲れたら無理をせず、ホテルに戻って昼寝をするようです。
#その場で旅行プランを放棄する
旅行プランはある程度立ててから日本に来ますが、それを放棄することを厭わないという意味です。例えば、街歩きをしていて面白そうな商店街を見つけたら歩いてみる。疲れたと感じたら、知らない喫茶店に入ってみて休むという感覚です。そうやって、時間を自由に使っていること自体が癒しになるからです。
2. 地元の生活を楽しむ

せっかく海外に行ったら、ツーリストエリアだけを行動するのではなく、地元の人たちの生活に触れたいとは誰もが思います。しかし、そういうことを安心して楽しめるのは治安のいい日本ぐらいで、治安のよさが日本の貴重な観光資源になっています。
#地元の食を体験する
ガイドブックには出ていない地元の飲食店に入ってみます。多くの場合、そば屋、うどん屋、町中華、焼肉屋、居酒屋などになります。中国人と日本人は味覚が異なるので、必ずしも美味しく食べられるとは限りませんが、中国ではお目にかかることができない不思議な料理を楽しめることになります。そういう体験をすることが楽しいわけです。
#地元の休暇を楽しむ
レンタサイクルを借りて多摩川沿いを走ってみるとか、隅田川のように河畔が整備されている川沿いを歩くという記事が目につくようになってきています。観光という意味では何もない場所ですが、その時間を楽しむことができます。疲れたら川沿いのカフェに入って休憩をします。
また、面白いのは、このような記事を挙げている人は「中国人が少ない場所だからよい」といっていることです。日本人も同じですが、同国人ばかりがいっぱいいる観光地は面白くないわけです。せっかく海外にきたのだから、中国人がいない場所に身を置きたいと考えるようです。
3. 逆張り旅行

「逆張り旅行」は国内旅行では2022年ぐらいから知られるようになった旅行スタイルです。人混みが疲れるのは中国人も同じ。そこで、混雑する観光地を避けて、空いている場所を選択するという考え方です。
#大都市で混雑していない場所を探す
例えば、人気のラーメン店に行くことを計画していたとします。しかし、そこがあまりの人気に長い行列ができていたら、あきらめて別のラーメン店を探します。
「小紅書(RED)」は位置情報を加味した「付近検索」ができるので、それでラーメン店を探します。そして、「Bilibili」や「Tabelog」で、評判を確かめ、そちらに移動をします。
以前は何がなんでも人気のラーメン店に入って、写真を撮り、それをSNSに挙げなければなりませんでした。そこから解放されて、日本でラーメンを食べている時間を楽しむようになっています。
#人が少ない街の方が趣きは濃い
東京、大阪という大都市ではなく、小都市に目が向くようになっています。その中でも人気なのが小樽です。映画やドラマの舞台となることが多く、街並みも素敵で、落ち着いていることから人気があります。
さらに、熊本、宮崎、鹿児島も人気が上がっています。大都市ではないものの、田舎ではなく、利便性が確保されながら、落ち着いた小都市の空気感を楽しめます。
また、歴史が長い街であるので、江戸時代や明治時代の建築物や店が残っていることも面白いようです。このような小都市で、日本の伝統工芸品と出会ったりすることが楽しいようです。
4. “好き”を計画の基本にする

#どこに行くかは“好き”が決める
#何を買うかは“好き”が決める
#聖地巡礼
一人旅が増えていることと関係しているかもしれません。自分の好きなアニメ、ゲームのIPの聖地巡礼をする人が増えています。その中でも人気があるのが『名探偵コナン』で、テレビアニメは1000話を超え、劇場映画も28作目となり、その多くで、日本の実在の場所を背景にしています。
そのため、コナンの聖地巡礼をしようとすると、東京、大阪、京都、奈良、鳥取を最低でも回る必要があります。「小紅書(RED)」の情報によると、初心者がマストの聖地を巡るだけでも最低8日間はかかるそうです。
新幹線の中でアニメを見て、現場で「小紅書(RED)」で知られざる聖地の情報を発見して巡ると、『名探偵コナン』の世界に浸り切ることができ、本人にとっては楽しい時間を送ることができます。
買い物も、『名探偵コナン』の関連グッズが中心になります。フィギュアとガチャガチャに人気があるようです。そのほか、聖地巡礼のIPとしては、『君の名は』『スラムダンク』『らき☆すた』『ゆるキャン△』『ワンピース』『ドラえもん』『呪術廻戦』などの名前がよく挙がります。
この聖地巡礼というのは、日本でも多くの若者が楽しんでいますが、旅行の基本形です。私たちの祖父母世代が新婚旅行でこぞって熱海に行ったのも、明治時代に大人気となった小説『金色夜叉』の聖地巡礼です。
馬籠、妻籠村に行くのも島崎藤村の『夜明け前』の聖地巡礼です。安土城や岐阜城を訪れるのも『信長公記』、京都を巡るのも『源氏物語』の聖地巡礼なのです。おそらく、昔の人は、自宅で物語を読んだり、文庫本を手にして聖地巡礼の旅を楽しんでいたのだと思います。
それが時代がくだるとともに、なんの聖地なのかが曖昧になっていき、有名だから行くということになってきました。その意味で、アニメやゲームIPの聖地巡礼は一時のブームでもなく、若者の流行でもなく、旅行の原点回帰なのです。
5. 買い物はコンビニがメイン

もうひとつ面白いデータが、利用する小売店のランキングです。2019年は圧倒的にドラッグストアでした。ドラッグストアに行き、紙オムツや日本製漢方薬などを買い、お土産にしたり、転売するというのが一般的でした。
しかし、コロナ禍の間に越境ECが進歩をし、今ではドラッグストアの商品が手軽にECで購入することができます。しかも、セールの時に買えば、日本で買うよりも安かったりするのです。わざわざ日本で買う必要がなくなっているのです。
そこで、浮かび上がってきているのが「コンビニ」です。
#日本のコンビニで食べ物を探す
旅行に行ったら夕飯をいただくのは楽しみのひとつです。現地ならではの少し高めのレストランに行き、のんびりと食事を楽しみたい。誰もがそう思います。しかし、同時に「疲れた」「ホテルで休みたい」と思うのも事実です。
一人旅だと、立派なレストランには入りづらいということもあるのかもしれません。そこで、目をつけているのがコンビニご飯です。
元々はコンビニスイーツが人気でした。「たっぷりクリームのダブルシュー」「生チョコサンドいちご」「北海道かぼちゃのモンブランプリン」「チョコシュー」などのスイーツがマストバイのスイートとして名前が挙がっています。
さらに、セブンの「スムージー」「ジャージー牛乳プリン」「のむヨーグルト」なども健康志向であり、美味しいために人気になっています。
さらに、「鶏のなんこつ揚げ」「チョリソー」などの冷蔵食品も人気です。インバウンド客が泊まるホテルのほとんどが、共用の電子レンジを用意しているので、これで温めて食べます。

コンビニ食品が人気になる最大の理由はおいしいからです。日本人でも、コンビニのスイーツや食品はおいしいと感じるのですから、中国人もおいしいと感じるのだと思います。また、中国ではあまりない味つけだということもあります。
さらに、中国のコンビニでも同様の商品は置いてありますが、味が違うと多くの人がいいます。それがどこまで本当かどうかはともかく、食べ比べをしてみたいとなる気持ちはよく理解できます。
さらに、もはや定番となっているおにぎりも人気ですし、カップ麺も人気です。カップ麺でも一風堂や蒙古タンメン中本などの有名店とコラボした商品があります。これに人気が出ています。
コンビニに行って、食べたいものをいろいろ買って、ホテルで楽しむというのは、夕食としては統一性がないとは思いますが、いろいろ買い食いをするという楽しさがあるのも事実です。コンビニチキン食べ比べやコンビニプリン食べ比べの記事は無数に見つけることができます。
中国人旅行者がコンビニに目をつけているのは面白い現象で、コンビニ各社は当然把握をして対応して商品を開発していると思います。

日本旅行だけでなく、国内海外旅行一般に登場するキーワードが「自分に帰る」です。中国にいるときは、仕事や生活で強いプレッシャーの中で生きていて、そこでは自分を抑えることもしなければなりません。旅行に行ったときぐらいは、自分を解放して、自分を取り戻したい。そういう感覚になっています。
ですので、バズる観光地に行って写真を撮ってSNSに挙げるという旅行スタイルもまだまだ多くの人が捨てていませんが、少なくとも「小紅書(RED)」界隈ではダサい感じのことになっています。
「映える撮影スポット」で検索をしても、以前は浅草寺などの定番観光地や「SHIBUYA SKY」などの人気スポットの写真が大量に挙がっていましたが、今では少数派になっています。挙がっているのは、アニメの聖地巡礼スポットで、登場人物と同じポーズをしている写真ばかりです。

若い世代は、アニメ、ゲームの聖地巡礼をする人が圧倒的に多くなっています。では、中高年はどのような聖地巡礼をしているでしょうか。ある人は酒蔵巡りをしていますし、ある人は工場見学巡りをし、ある人はテーマパーク巡りをし、ある人は水族館巡りをしています。
それも忙しく回るのではなく、一つの場所に時間をかけるようになっています。回りきれなかったら、次の休みにまた来ればいいのです。
従来のように、観光地を次々と巡り、お土産を大量に買っていくという旅行スタイルが減少していることは間違いありません。何らかのテーマに基づいて、1日のんびりと楽しめる観光地開発が求められています。
中国人インバウンド旅行者は、日本に来る回数が増えたこともあって、次第に混雑する観光地から離れ始めています。オーバーツーリズム問題を自ら解消するように動いてくれ、しかもこれまでスポットのあたらなかった観光地にも目が向くようになっています。日本のインバウンド旅行関係者にとっても、好ましい方向に進もうとしているように思います。
- image by:Alexandre Rotenberg/Shutterstock.com
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