売上No.1の郷土菓子「桔梗信玄餅」が挑む、地元山梨への恩返し
ハイジにホテルに水族館~伝統を打破! 和菓子屋の夢
その言葉どおり、中丸は和菓子屋の枠を越えた。その象徴が山梨県北部の北杜市にあるテーマパークだ。
「山梨県立フラワーパーク」はもともと山梨県が花の産業振興のために作った施設だったが、毎年億単位の赤字を出していた。そこで中丸が再建に手を挙げ、2006年、山梨県から運営を引き受けたのだ。
「建物はお金はかかっていい雰囲気なのですが、十分に生かし切れていないと感じました。私どもで運営すれば魅力的な施設になると、勝手に思ったわけです」(中丸)
スイスを思わせる建物に注目した中丸は、そこを「ハイジの村」と名付けた。「アルプスの少女ハイジ」の世界観を再現し、今や年間20万人が訪れる人気のテーマパークに生まれ変わらせたのだ。
入り口ではハイジがお出迎え。ハイジの世界観を盛り上げるために中丸は新たな建物も作った。それが、ハイジがお爺さんと暮らした「アルムの家」。室内もアニメを参考に、家具や道具などを忠実に再現している。
「ハイジの村」に隣接しているのが、ホテル「クララ館」。ここもかつて赤字だった公共の温泉施設。桔梗屋が再建を手がけている。
泊まる和室にもハイジの世界が。襖にはハイジが暮らす村が描かれている。夕食はもちろん本格的なスイス料理。テーブルにシェフがやってきて自らサーブしてくれる。「ラクレット」というスイスの家庭料理は、チーズの塊を温めて削いでいき、茹でたジャガイモなどにからめて食べる。この料理はハイジのアニメでも登場する。
一泊2食付きで大人1万1640円~、小学生4620円。子ども連れにはありがたい値段だ。コンセプトを明確にすることで客を呼び、赤字から黒字の施設へと転換させたのだ。
「ハイジの村」では結婚式もできる。年間20組ほどがここで式を挙げている。ぜひ緑の中で、という花嫁さんが多いそうだ。披露宴のお楽しみは桔梗信玄餅の詰め放題。その演出に、会場は笑顔にあふれるという。桔梗屋グループの婚礼担当、中沢留美は「『ここでできるの』と喜んでくれる方が多いので、その顔を見るのが嬉しいです」と言う。
「ハイジの村」以外にも、桔梗屋はフランスの画家ミレーのコレクションで知られる「山梨県立美術館」や、富士山のふもとの忍野村にある淡水魚の水族館「山梨県立富士湧水の里水族館」といった公共施設の運営にも参加している。
中丸はなぜ、和菓子屋の枠を超えてチャレンジし続けるのか。
「我々ができることでお客様に喜んでいただければ、大袈裟に言えば山梨の観光にプラスになると考えられると思います」
地元山梨に貢献したい~和菓子屋のベンチャー魂
山梨県笛吹市にある野菜畑。桔梗屋の自社農園だ。働いているのは農園担当の橘田光一郎。桔梗屋グループの社員で、7年前、農園の立ち上げから携わっている。
「桔梗屋の営業部門にいまして、最初は不安のほうが大きかったのですが、県外に研修に行かせていただいたりして、だんだん楽しさが出てきたと思います」(橘田)
ここはもともと耕作放棄地。ふる里の農地が荒れ放題になるのは忍びないと、その再生を始めた。土地を借り上げることで農家も喜ぶ。さらに桔梗屋は、リタイヤしたシニア世代も積極的に雇用。現在34人が働きながら第2の人生を謳歌している。社員のひとりは「いいですね、自然の中で働くのは。空気もいいですし、仲間もいるから話し相手もいますし」と語る。
農園で作った野菜を食べてもらうため、桔梗屋はレストランも作った。「イタリアントマトクラブ」のヘルシーなメニューは客に評判。一番人気は自社農園で採れた野菜をふんだんに使ったサラダバー。このサラダを目当てに来るお客もいるほどだ。
この秋、桔梗屋は新たな挑戦を始めた。本業の菓子作りでも、地元農家との本格的なコラボに動き出したのだ。
入社10年目、仕入れ担当の塚原弘明は、山梨のブドウを使った新しい菓子作りのため、農家を訪ねて回る。
ブドウ農家の内田良幸さんが作っているのは、種なしで皮ごと食べられることで人気のシャインマスカット。その内田さんに「初年度なので1トン半くらいの仕入れを考えています」と話す塚原。地元のフルーツを使って大量の菓子をつくるのは、桔梗屋にとっても初めてのこと。仕入れるのはいわゆる「訳あり」のブドウ。粒が小さかったり、欠けているものを買い取り、それを加工品にすることで、農家をサポートするという。
まずシャインマスカットを皮ごとミキサーに入れてジュースにする。それを温めた寒天と混ぜあわせる。次にゴム風船を機械にセット。そこに液を詰めていく。「玉ゼリー」というお菓子だ。割ってみると、まるで本物のブドウのようだ。
9月下旬、いよいよ販売開始。中央高速釈迦堂パーキングエリア内の店に、担当の塚原が「シャインマスカットゼリー」(3個入り、410円)を並べていく。ラベルには「山梨農業応援菓」の文字が。その思いが通じたのか、お客が次々と手に取っていく。
「今後も地元の農家さんと協力して、山梨のフルーツを盛り上げていきたいと思います」(塚原)