志半ばで倒れたホテル王「セザール・リッツ」の成り上がり人生

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2018/06/20

セザールの伝説を伝える「ザ・リッツ・カールトン セントラルパーク」

近年に至るまで、少なくてもアメリカ本土においては、超豪華ホテルをチェーン展開することは容易なことではありませんでした。

豪華なホテルを造り、優れたサービスを提供しようとすれば、経費がかさみ利益は減ります。ほとんどの投資家はお金儲けをするために、ホテルのオーナーになります。利益幅の少ない豪華ホテルに、投資をする人を探すのは難しいことだったのです。

1930年、セントラルパークの南側を通る59ストリートと6アベニューの角にサンモリッツというホテルが建てられました。半数以上の部屋からセントラルパークが見渡せる素晴らしいロケーションです。この場所に惹かれて人々は泊まりにきます。しかし、豪華ホテルにしてしまえば、利益は減りますから、小さな部屋を1000室備えたエコノミーホテルとして建築されました。

のちにエンパイアステートビルのオーナーになったことで知られるニューヨークの不動産王、ハリー・ヘルムズレーがこのホテルを買収し、ホテル事業への一歩としました。しかし、1972年にレオーナと再婚すると、彼のサクセスストーリーに暗雲が立ち込めます。ハリーが築きあげた7000億円にも及ぶ財産を、彼女が支配しようとしだしたからです。

5000室ものアパートと2600室にも及ぶホテルなどからなる資産は、レオーナの悪行によって、危険な状態に晒されることになります。1985年には、ライバルとも言えるドナルド・トランプが、サンモリッツを78ミリオンダラーで買収。そのわずか3年後の1988年に、180ミリオンダラーでオーストラリアの富豪に売却しました。

勝ち誇った態度を取るトランプに、レオーナの怒りは爆発。逆にトランプは、レオーナに得意の毒舌攻撃を仕掛けます。“人間の尊厳をけなす存在だ”と。

しかし、やはり購入価格に無理があったのでしょう。その翌年には、早くもローン返済に詰まり、オーナーは債権者であるF.A.Iインシュアランスカンパニーにホテルを取られてしまいます。

それから7年。またもトランプが乗り出し、サンモリッツをコンドミニアム(分譲マンション)に改装して売る提案を、F.A.Iインシュアランスカンパニーに持ち掛けます。外壁を取り去り、トランプのトレードマークであるブラックガラス”覆われたビルにするため、ホテルは1999年4月20日に閉鎖されました。

しかし、そのわずか1週間後、ホテルは185ミリオンダラーで売られ、4月29日には営業再開という、予測を覆す動きとなりました。購入した人物は、急激に力を伸ばしてきたホテルビジネスマン、イアン・シュレガーでした。


予想外の急展開に、チャンスを逃したトランプは悔しがります。さらに同年11月、イアン・シュレガーは早くもホテルを売却。購入先のグループがリッツ・カールトンと組み、それをコンドミニアムとホテルの複合ビルに改装し、259室の広い客室を備えたリッツ・カールトンが誕生することになったのです。

1900年後半を代表するホテル不動産王3人の駆け引きの駒となりながら、エコノミーホテルだったサンモリッツは最高級ホテル、リッツ・カールトンへと変貌を遂げました。そのロケーションとハードの素晴らしさは、周囲にあるプラザホテル、カーライル、ピエールなどの超豪華ホテルと肩を並べるほどです。

エントランスの前にはいつもドアマンが立ち、宿泊ゲスト以外は入りづらい雰囲気を醸し出しています。しかし、お茶を飲んだり食事をしたりする目的で入るのであれば、躊躇うことはありません。ソファに座り、クラッシックスタイルのラウンジを見渡せば、オークの木で組まれた、その美しい造りにため息がこぼれ、静まりかえった空間に心が癒されます。

躍動、活気、喧騒などで表現されるニューヨークとは、全く異なった空間を造りだしているラウンジ。そこに行くと、“他がやっていないことする”と言ったセザールの言葉が思い出されます。

image by:ケニー・奥谷,THE RITZ-CARLTON CENTRAL PARK

 

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奥谷啓介、NY在住。慶応義塾大学卒業後、ウエスティンホテルズ入社。シンガポールのウエスティン、サイパンのハイアット、そして世界屈指の名門ホテル・NYのプラザホテルに勤務。2001年米国永住権を取得、現在はNYを拠点に執筆&講演&コンサルタント活動中。日米企業にクライアントを持ち、サービス・売り上げ・利益向上の指導からPR&マーケティングまでのマルチワークをこなす。

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