旅も人生も、もっと楽しく編集できる。

安さを超えた魅力がある。のんびり「深夜高速バス旅」のススメ

吉村 智樹
吉村 智樹
2019/12/17

なんでもない店の、普通の人の人生に惹かれる

──読んでいて、「スズキさんって、本当にのんびりと過ごすのが好きなんだな」と感じました。移動もバスや船でゆっくり時間をかけるし、観光名所をめぐるわけでもなく、そうかといって難所を必死で乗り越えるわけでもない。いい意味で力が抜けた旅というか。このような淡々とした旅の記事を書いてみたいと思われたのは、なぜですか。

スズキナオ

「う~ん、こういうふうにしか書けないから(笑)。いわゆる“バズる記事”を書ける人は、すごいなと思います。でも、ライターの僕がいうのもなんですが、そういう派手な記事を本当に書けなくて。おしゃれだとか、コンセプトがしっかりしているお店を僕が取材をしても他のライターさんには負けるので、自然と視点が『なんでもないお店。なんでもない地味なもの』へ向かっていくのだろうと思います。普通のお店を永く営んでこられた、普通の人の人生に、僕はとても惹かれるんです

「普通の店を永く営んでこられた、普通の人の人生に強く惹かれる」とスズキさんはいう

──どうやって先方に取材許可を得ているのですか。

スズキナオ

行き当たりばったりが多いですよ。たたずまいを観て『ああ、ここはよさそうだな』って。それに電話で取材許可をとろうにも、『Webメディアの○○です』と伝えたところで、相手に意味が通じないんです。『うえぶ?なんだいそれは』って警戒されてしまう。インターネットとは何かってところから説明しなきゃならない。それよりも、実際に食事をして、お店の方に直接話しかけたほうが早いです」

──飛び込み取材依頼で、断られることはないですか。

スズキナオ

「取材を断られる例は意外と少ないです。それに、たとえ取材を断られたとしても『ごはんがおいしかったし、お酒も飲めたし、楽しかったから、まあいいか』って思ってしまうんです。ライターだったらもっと食い下がるべきなのだろうけれども、僕にはそれができないんですよね


旅先でふと入ったお店で、冷たいビールとおいしいものが食べられたら、それだけで幸せ

──そのガツガツしていない気持ちが文章に滲み出ていて、読んでいてとても心地いいです。そして、相手がぽつりぽつりと自分の過去を語りはじめる描写がたまらないです。時間がゆったりと流れるような。異郷の地の、知らない人の人生がこんなに面白いなんて。インタビューのコツはありますか。

スズキナオ

「コツは……ないです(苦笑)。僕、リアクションが薄いんですよ。インタビューの録音を起こしていても、『へ~』『そうですか~』としかいっていなくて。取材というより、親戚のおじさんの話を茶の間で聴いている感覚ですね。自分でもいやになります。でも、こちらの反応が薄いからか、店主さんが逆に『自分が盛りあげなきゃ記事にならない』と心配してくれるようで、どんどんいろんな話をしてくださるんです。過去の写真を持ってきてくれたり、家宝を見せていただけたり」

──取材相手が、記事が成立するかを心配して自分からどんどん話をしだすって、それはそれで高等テクニックですよ。

スズキナオ

「いやあ、そんないいものではないです。自分でも『踏みこめてない。訊きこめてないな~』と思う日もあるんです。けれども、鋭い質問を投げかけて、深追いして、相手の心にぐっと踏み込む、みたいな取材をしたくないんですよね。それよりも、たまたま隣どうしになった人とふとした拍子に交わす、ふんわりした会話を書いていきたい。『どこへ行くんですか』『○○です。あなたは?』『僕は○○です』『そうですか、お気をつけて』。それくらいの温度感と距離感でいたいんです」

店主さんと、なにげない会話を交わすひととき。これもまた、たまらない旅情だ

──おっしゃるとおり、このごろはWebもページビューを稼ぐために「悲惨な体験談を引き出した者が勝ち」みたいな風潮があって、書く側も読む側もしんどくなっていると感じます。スズキさんの文章は、疲れた心にじんわり沁みこみます。

スズキナオ

「『必ず取材してやるぞ!』『必ず記事にしてやるぞ!』『必ず原稿料にするぞ!』みたいな急いた気持ちがあんまりなくって。そもそも、ネタを探すという感覚もないんです。無理せず生きて、取材できる場所が自然に見つけられるのが一番いいなって。そんな態度だから、お金がぜんぜん貯まらないんですが(苦笑)。そういう点でも運賃が安く、ゆっくり進む深夜高速バスは、自分にはとても合っていると思います」

歴史的名所や景勝地をめぐったり、絶景を望んだり、ご当地グルメに舌鼓を打つ旅は、もちろん素晴らしい。

スズキさんは「無理せず、ゆるく生きて、そのなかで出会った場所や人たちを取材していきたい。そんな自分には高速バスの旅が合っている」と語る

でも、スズキナオさんの味わい深い著書『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』を読んでいると、見知らぬ街にぽつんとある大衆食堂で、なんの変哲もないラーメンをすすりたくなります。

ビールや酎ハイでほろ酔いになりつつ店のおばさんおじさんたちと他愛もない話をする、そんなのんびりとした旅がしてみたくなるのです。

へたすれば現地で過ごす時間よりも移動の方が長くなるかもしれない高速バスの旅。しかしながら、深く想いに耽りながら、ゆるりと目的地へ向かうバス旅は、安さを超えた魅力があります。もっとも贅沢な旅といえるかもしれません。

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「メシ通」などを中心に執筆中。本書『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』が初の単著書となる。酒場ライターのパリッコとの共著に『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

  • 『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)
  • 著者:スズキナオ
  • 定価:本体1,720円(税別)
  • http://stand-books.com/sinya100kai/
  • ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
吉村 智樹

京都在住の放送作家兼フリーライター。街歩きと路上観察をライフワークとし、街で撮ったヘンな看板などを集めた関西版VOW三部作(宝島社)を上梓。新刊は『恐怖電視台』(竹書房)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)。テレビは『LIFE夢のカタチ』(朝日放送)『京都浪漫』(KB京都/BS11)『おとなの秘密基地』(テレビ愛知)に参加。まぐまぐにて「まぬけもの中毒」というメールマガジンをほぼ日刊で発行している(購読無料)。

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