美しさと伝統。伊豆の小京都・修善寺で、侘び寂び漂う老舗旅館に泊まる温泉旅
海も山もあり、1年を通して人気のレジャースポットとなっている静岡県・伊豆半島は、なんと540余りもの源泉が湧き出でる日本でも有数の温泉地帯です。
全国的にその名をとどろかせる熱海をはじめ、海の温泉、山の温泉が数多点在。そんな数ある伊豆の温泉郷のなかで、最も風情あふれる場所はどこ?との問いに、真っ先に思い浮かぶのが「修善寺」です。
伊豆半島北部の西と東を結ぶちょうど真ん中に位置する修善寺は、緑あふれる桂川沿いに温泉宿が軒を連ね、実にしっとりと美しい景観が魅力の温泉地です。
開湯1200年余りといわれ、伊豆半島の中で最も古い温泉で、“美人の湯”とうたわれるアルカリ性の優しい湯は「日本百名湯」にも名を連ねるもの。
源氏と由縁のある地としても知られ、また芥川龍之介、尾崎紅葉、泉鏡花、島崎藤村、井伏鱒二、正岡子規、高浜虚子はじめ多くの文人、歌人たちにも愛された地として数々のエピソードにことかかない、なんとも浪漫にあふれる温泉地です。
今回は、そんな情緒に満ちた修善寺で、実に修善寺らしい滞在が叶う宿、「湯回廊 菊屋」をご紹介しましょう。
※本記事は新型コロナウイルス感染拡大時のお出かけを推奨するものではありません。新型コロナウィルスの国内・各都道府県情報および各施設の公式情報を必ずご確認ください。
修善寺の四季を愛でる伝統の温泉宿「湯回廊 菊屋」
“伊豆の小京都”とか“小江戸”とも呼ばれる修善寺には、歴史のある老舗の旅館が軒を連ねます。510余年もの歴史を担い現在にまで続く宿「あさば」や、1872(明治5)年創業、横山大観や初代中村吉右衛門など多くの文人墨客に愛された文化財の宿「新井旅館」をなどなど。
こぢんまりとした山間の温泉郷には超高級の代名詞で知られる、一度は泊まりたい憧れの宿も点在するので、毎回宿選びに頭を悩ませるのも魅力の温泉地といえます。
今回ご紹介する「湯回廊 菊屋」は、桂川を眺める修善寺の中心部に位置する老舗旅館です。その歴史はなんと約400年にもわたり、伊豆を代表する老舗旅館のひとつとして、昭和天皇が御幼少期に宿泊されたり、文豪・夏目漱石の贔屓宿としても知られています。
老舗旅館のなかには、なかなか敷居が高く(気分的にはもちろん、お値段的な意味でも!)気軽にお邪魔するのが難しい宿もありますが、「湯回廊 菊屋」はちょっと優雅に過ごす週末の温泉旅というコンセプトにぴったりなお値段設定なので、ご安心を。
実は同旅館、江戸時代から続く修善寺の「菊屋」が元となっています。菊屋は2004(平成16)年に伊豆半島を襲った台風により甚大な被害を被ったことをきっかけとして、経営が「箱根雪月花」など全国でリゾートを展開する共立リゾートに任されたことにより、屋号を「湯回廊 菊屋」と改め現在に至っているのです。
外観や宿のシンボルである古い建物空間は昔のまま、よりリゾート色の濃いサービスを提供するのが現在の「湯回廊 菊屋」。つまり、老舗温泉旅館の雰囲気を味わいつつ、プライベート感を重視したリゾート滞在が楽しめる宿となっています。
その歴史の長さだけたくさんの物語が語られる「湯回廊 菊屋」において、何といっても特筆すべきは“湯回廊”と“八角堂”の存在です。
宿の名前にもうたわれる“湯回廊”は、館内に点在する大浴場や、それぞれ趣向を凝らした湯処、そして各客室棟を結ぶ形でぐるりと渡された廊下のことを指し、侘び寂びが滲み出るような佇まいや、時の経過を物語る板の艶感に誘われるまま、どこまでもうっとりと歩き続けてしまう素敵さ。
桂川を眺める渡り廊下や、四季折々の自然に彩られる中庭をまるで一枚の完璧な屏風のように額縁に収めた瀟洒(しょうしゃ)な空間に、思わず足を止めずにはいられません。
この宿を愛し、しばしば逗留に訪れていた夏目漱石の資料が展示されるコーナーもあり、また八角形の形をした“八角堂”は、自由にコーヒーやお茶がいただけるラウンジとして解放され、館内をあちこちと巡っているだけで、まるで時間旅行をしたような気分になるのです。