時代劇好きの少年がどうやって刀鍛冶になったのか?〜刀鍛冶集団「日本玄承社」〜

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2022/05/19

刀に導かれるように京丹後市へ

神谷神社

ところで移住してきてから3人には驚くことがありました。

それは京丹後市が刀と繋がりが深い土地だということ。例をあげると、京丹後市久美浜町にある神谷神社(神谷太刀宮)には、丹波道主命(たんばのみちぬしのみこと)が身につけていたという宝剣「国見の剣」がお祀りされているといわれています。

そういえば、神谷神社の磐座といえば『鬼滅の刃』で炭治郎が切った岩にそっくりと話題になっていますよね。

竹野神社

それから山副さんが聞いた話では、すぐ近くにある竹野(たかの)神社には麻呂子皇子が鬼を切った刀を奉納したという言い伝えがあるそう。麻呂子皇子といえば聖徳太子の異母弟で、当地には鬼退治の伝説が残っています。

遠處遺跡製鉄工房跡

中でも最も驚いたのは、鍛冶場から車で10分ほどのところにある「遠處(えんじょ)遺跡製鉄工房跡」。ここは古墳時代後期と、奈良時代後半~平安時代前期にかけて営まれた古代の製鉄コンビナート跡といわれています。

遺跡製鉄工房跡の看板。古代の人の製鉄の様子がイラストで表されています

発掘調査で古墳時代後期の製鉄炉跡や木炭窯跡が見つかり、わが国で鉄を原料から生産した最古級の製鉄遺跡のひとつと言われているのだとか。

それらを知った時、山副さんは「ここに来るための2年間だったんだって運命を感じました」、黒本さんも「刀に関する歴史や伝承が多くて、丹後でやる意味も見いだせた訳です。導かれたという感じですね」と言います。

自分を代表する刀を一振り作りたい

「焼き入れ」により付けられた美しい刃文は刀鍛冶の芸術性が最も光る部分

鍛冶場ができた今、未来に向けてどのようなことを考えているのでしょうか。

黒本さん「まずはコンセプトを決めて会社を代表する刀を一振り作りたいと考えています。例えば柄(つか:握って掴むための部分)などを民谷螺鈿株式会社さんと作ったり、刀の刃文(はもん)に京丹後の山並みや海波を写したり。その他、金具など京丹後の工房や作家さんと何かできないかなとも思っています」


ふいごで玉鋼を熱する宮城さん。「炭切り三年、向こう鎚五年、沸かし一生」という言葉があるほど、鉄を沸かすのは難しい

コンセプトを決めて刀を作るということは、珍しい取り組みだと感じました。

黒本さん「そうですね。その他、企業とのタイアップをしてさまざまな方向を見出だせたらなとも思っています。時代に合わせていくのも重要ですし、そのためには技術がしっかりしていることが大事。僕たちの強みは技術的なところもあると思っているんです。

というのは僕らの師匠は素晴らしい技術を持った方で最初から最後まで正確、かつ大胆な仕事をされます。さらに工程ごとの仕事も素晴らしく、僕らはそれを直に見て学んでいるので、そこに強みを感じています。自分だけの一振り、そういう刀が欲しいと思っていただけるように、どんどん作っていきたいです」

試作中の展示ケース

購入した後、現代生活に合わせた飾り方を提案できたらとも考えているそうです。確かに、購入した後、普段は押し入れの奥深くにしまっておき、休日に出して眺めるような印象があります。実際、飾るとなると、どうしたらいいのかイメージがわかない方が多いように思います。

黒本さん「そうなんです。刀は精神的な側面も強くて強い心でいるためのお守りとして持っているだけでもいいという考え方もできるんです。ですから普段はしまっておき、時折り出して眺める。それはそれで一つの方法。

ですが飾ることと、お守りとしての存在、両方が叶えられる展示方法を提案できたらと思っています。将来的には自社で、刀からケースまで全て完成させられるシステムができればなと思っています」

美術館などで観る刀は美しいだけでなく、そこにあるだけで独特の力、威力を放っている印象があります。

黒本さん「切れるからこそ日本刀なんです。日本刀は武器という側面があるので、外見が美しくても切れない刀ではいけないと思っています。切れるからこそ美しい。そこを重要視して作っています。実際、使うことはないけれど、使った時は自分を守ってくれる。そういう刀を作りたい思っています」

それから3人にはもう一つ願いがありました。

山副さん「刀は武士のステイタスシンボルでした。その地位を取り戻したいですね。日本刀を持つことに憧れて、購入したいと思えるような魅力を発信していきたいです」

後者に伝え、社員として育てる

玄関前に立つ3人。看板は師匠である吉原義人氏の手になるもの。師匠の愛を感じます

師匠から教えられた技術を後世にも伝えていきたいという3人。会社にした理由のひとつに、「後継者を社員として育てていく」というものがありました。自分たちがその部分で大変だったので、そういうところも変えていきたいと思っているそうです。

山副さん「日本玄承社がやっていることがあたりまえになればいいなと。刀鍛冶業界を変えていくぐらいの気概でやっていきたいと思います」

熱い情熱を持ち、しっかりと自分の考えを語る3人。近い将来、きっと彼らの思いが叶うことでしょう!

■■INFORMATION■■

日本玄承社
住所:京都府京丹後市丹後町三宅314

YouTubeチャンネルもぜひご覧ください。

3人の刀作成時の映像です▼

こちら、京都・亀岡にいらっしゃる刀工さんの記事もぜひ併せてお読みください。

京都・亀岡の刀工に聞く「日本刀の作り方」と「名刀」の見分け方とは?

  • source:KYOTO SIDE
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